FIRE、1億円あっても足りない!?

 こんにちは、ディアパートナー行政書士・FP事務所 代表の瀧澤です。

 今回は、今話題のFIREについて、日経ヴェリタス2021年9月26日号「人生100年こわくない・資産活用で笑おう(野尻哲史)」から引用をしつつ、私見を交えながら投稿します。

 最近、FIRE(Financial Independence,Retire Early)という言葉がはやっています。

 Financial Independence(FIRE)とは、経済的自立、金銭的自立という意味で、例えば「お金のために働くことをしないで済む状況=十分な金融資産がある状況」ということを指します。Retire Earlyはそういう状況ができた段階で、できるだけ早めに引退することをいいます。

 特にFI、経済的自立については大いに賛同できると考えています。ただ「後半」のRE、早期退職に関しては一筋縄ではいかないことを、私たちはよく承知しているはずです。

 退職後の生活の収支は「退職後の生活費=年金収入+勤労収入+資産収入」で表されます。言うまでもないが、早期退職となれば、日本の公的年金制度では退職後の年金給付水準はあまり期待はできません。

 もちろん勤労収入はそもそも放棄しているので、FIREとしては、この式は「退職後の生活費=資産収入」に置き換わります。資産収入を増やすか、生活費を下げるかの2つが大きな選択肢になるでしょう。

毎年一律の収益は期待できず

 それでは、退職後の生活費はどれくらいが必要なのでしょうか。総務省統計局の家計調査(家計収支編)によれば、夫65歳以上、妻60歳以上で夫婦2人だけの無職世帯では、16~20年の月次支出の平均は消費支出が約23万5000円、税金・社会保険料などの非消費支出が約3万円で合計約26万5000円。年間で318万円程度になります。

 そこでシンプルな議論で考えてみましょう。「資産運用で1億円を作り、そのまま年率3%で運用を続ければ毎年300万円の運用益が出ます。これで年間生活費300万円の生活を送れば、40歳で退職しても資産に手を付けず一生暮らしていける」という考え方です。

 しかし、ここには大きな課題が立ちふさがります。毎年、一律に3%の運用収益を期待できないということです。

 40歳から95歳までの55年間という長い運用計画であれば、ポートフォリオの構成比をうまく調整すれば平均3%の運用は十分に可能でしょう。しかし、年ごとの収益率の予測は不可能です。運用収益が3%を下回るときもあれば、マイナスになるときもあります。もちろん3%を上回るときもありますが。

 収益率が変動する中で引き出しだけを定額で行うときに出てくるのが「収益率配列のリスク」です。サンプルをグラフにまとめてみました。55年間の平均パフォーマンスはともに3%だが、「前半に低いパフォーマンスのパターン」と「後半に低いパフォーマンスのパターン」の2つを作ってみました。

 単純に前者の並び方を逆にしたのが後者というだけだが、前者は34年目から赤字になっています。すなわち33年で資産が枯渇しました。これに対して後者は同じ引き出しを続けながらも、資産が2倍以上に大きくなっています。このブレは大きいといえます。

 そこで考え出されたのが、資産を枯渇させない引き出し額を推計するという方法です。この議論は、1994年のJournal of Financial Planningに収載されたウィリアム・ベンゲン氏の論文で初めて登場しました。

 この論文では、米国の過去のデータを使い、「株式50%、長期債50%のポートフォリオの場合、インフレ調整後の引出率3%であれば26年以降のどの30年間をとっても資産は持続した」と分析し、「今後35年間でも50~70%の株式比率であれば、インフレ調整後の引出率4%で資産が枯渇しない」と論じています。

 この引出率4%は、SWR(Sustainable Withdrawal Rate=持続可能な引出率、またはSafe Withdrawal Rate=安全引出率)と呼ばれ、この考え方は「ベンゲンの4%ルール」と呼ばれています。

「持続可能」な資産額は?

 この4%を使って、米国ではFIREの考え方として指摘されるのが「生活費の25倍の資産を稼いで、その資産の4%に相当する金額を退職後の生活費として引き出す」というルールです。これを守れば死ぬまで生活費には困らないといいます。年間生活費300万円の人であれば、その25倍である7500万円の資産が必要になるというわけです。

 考え方の中身はいたってシンプルで、

①「退職直前の必要資産額」÷「生活費」が25倍であれば、

②「生活費」÷「退職直前の必要資産額」=4%となることは明らかです。

 言い方を変えれば、退職後の生活費を資産のなかから4%で引き出して生活するためには、資産残高は生活費の25倍必要だということの説明でもあります。すなわち100%÷4%=25倍という計算式です。

 この4%を理解するうえで大切な点が2つあります。

 1つ目は「過去の市場パフォーマンスを使ってシミュレーションした結果」であること。

 市場パフォーマンスがどうなるかによって「資産が枯渇しない引出率」が従属的に決まるということです。米国における4%が日本でも適用できるかどうかには疑問が残るところです。

 例えば、米国に比べて日本の市場パフォーマンスが低いとすれば、SWRは4%よりも低くなるはずでしょう。その場合には、毎年の生活費を引き下げるか、準備すべき資産額を引き上げることが必要になってきます。

 SWRが4%で、必要な生活費は300万円であれば、退職時点の必要資産額は7500万円(300万円÷4%)ですが、SWRが3%なら、必要額は1億円(300万円÷3%)、さらに1%なら必要資産額は3億円となります(300万円÷1%)。

 しかも「持続可能」とは、過去のデータのシミュレーション結果で推計されたもの。その可能性は「95%や90%の水準」という前提を置いているため、5%や10%の人はその「持続可能」な引出率でも枯渇する懸念があると理解する必要があります。

 もう1つは、「持続可能な引出率」と呼んではいますが、実際にはその「率」は退職時点の資産額に対して適用しており、4%で計算した金額はインフレ調整しながらもその後ずっとその金額で引き出すものです。「率」と称しているが実際は「定額」引き出しです。そのため前述の300万円の引き出しと同様に「収益率配列のリスク」を内包していることになります。(ここはちょっと難しいですね~)

現金など「緩衝材」の必要も

 特に大きな懸念を残すのが、退職後の期間の前半において、想定するパフォーマンスよりも下回る場合に予想以上に元本の毀損が進み、その「後半」で資産が枯渇することです。

 そこで、前半でそうした事態になった場合に、運用資産を多く引き出さないための「緩衝材」を用意することが必要になります。預金にこの役割を持たせることも大切になるでしょう。ただ、その分、退職時点で用意する資産額が多く必要になります。

 FIREという考え方は、経済的自立を得るために資産を作り上げるという面では大変すばらしい考え方です。しかし、早期に退職することは、その後の使いながら運用する時代が想像以上に長いことを意味します。

 より大切なのはFIREの「後半」部分に起きることを想定した準備だということを忘れないでほしいと思います。

別の視点(①~③)

 この記事には以下のように3人の専門家が別の視点で投稿しています。

別の視点①

 いくらの資金が必要かを考えると同時に、FIRE下にある方々とのお話をされることをおすすめします。好きな仕事を自分のペースで長く続けるのがいいと思っています。

別の視点②

 経済は、世界全体で見ても、一国レベルでも、長期的な予測は極めて難しい。長期投資だからといって安定して運用収益が得られるとは限りません。

 「結果としてFIRE」なら素晴らしいですが、目標としてしまうと息苦しくないでしょうか。絶対逃げ切れるレベルまで資産を作れなければ、逆に「ずっとお金から自由になれない」ようにも感じます。

 多くの人にとって、早期リタイアより「長く働ける」の方が格段にリスクは低いと考えます。やりがいのある仕事をみつけ、それを続けられる人生設計に時間とコストをかけた方が得策ではないか。

別の視点③

 バブル崩壊を知る世代からすると、金融資産なんていつ大暴落するか分からず、FIREはリスキーな人生に見えてしまいます。資産を貯めることも生活防衛に大切ですが、いつどんな時代になっても稼げる力を身に付けておくことが最大の生活防衛策のように思います。

 RE(Retire Early)を目指すのではなく、収入のためにあくせく働く必要がない程度の蓄えを早期に蓄え、やりがいのある仕事を選べる状況を整えることが、人生の目標としてちょうど良いのでは。

まとめ

 たとえ、FIREに成功したとしても、その生活実態が「毎日が日曜日」の状態では、人生の充実度に悪影響を与えかねません。有償・無償にかかわらず、やりがいのある仕事(無償・ボランティアであるとすれば、それは趣味の域になっているかもしれません!)を続けて、天寿を全うするという生き方に私は憧れます。

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