マンションの相続、中流層の居住目的でも相続税が発生か?

みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。

令和5年7月22日付日本経済新聞電子版に「マンション相続、税の網広く 中流層の居住目的で負担も」という記事が掲載されていました。6月末に国税庁がマンションの相続税に関する新たな算定ルールが公表されましたが、その影響はどのようなものが考えられるのでしょうか。

都市部の好立地マンションは相続税評価額が上がる可能性

東京都内の築4年・29階建てマンションの10階に住む会社員Aさん(65)は「来年以降に私に万一のことがあったら、子どもに相続税がかかりそうだ」と心配しています。

それというのも国税庁が6月末、マンションの相続税に関する新たな算定ルール案を公表し、2024年1月から導入する可能性が大きいためです。

相続税は財産の課税上の評価額から基礎控除(非課税枠)を差し引き、控除を上回る金額に税率を掛けて算出します。

Aさんのマンションの評価額は現在約2700万円になります。妻に先立たれ、法定相続人は娘一人ですので、相続税の基礎控除は3600万円になります。

マンションの評価額と預金800万円を合計しても、約3500万円で基礎控除の範囲に収まり、Aさんがいま亡くなっても娘に相続税はかからない計算です。

しかし、今回、国税庁が示した新ルール案によれば、マンションの評価額が約5300万円とほぼ2倍に上がり、マンション分だけでも基礎控除を上回ります。

娘はすでに独立していて、マンションにはAさん一人が暮らしているため、同居親族などが相続する際に敷地の評価額を80%減らす「小規模宅地等の特例」も利用することができずに、約325万円の相続税が発生するといいます。

目立つ「マンション節税」

国税庁がこのような新ルールの導入に動くのは、マンションを利用した相続税の過度な節税が目立つからだといいます。マンションの評価額は現在、敷地全体の面積に共有持ち分と路線価を掛け、建物の固定資産税評価額と合計して算出します。

路線価は国税庁が毎年7月に公表する主要な道路に面した土地の1平方メートル当たり価格で、時価(公示地価)の80%を目安とするため、足元の地価上昇を反映しにくくなっています。

固定資産税評価額の見直しも3年ごとになっているため、マンションの評価額は物件の実勢価格(市場価格)を下回りやすくなっており、国税庁の調査によると、マンションの実勢価格を相続税評価額で割った乖離(かいり)率はほぼ右肩上がりで、2018年の全国平均値で2.34倍に達するといいます。

富裕層の間では、この実勢価格と評価額の乖離に着目し、市場価格が高くなりやすいタワーマンションの高層階の部屋を複数購入する例が少なくありません。それは相続税の課税評価の際に額面で計算される現預金をマンションに換えておくことにより、評価額を引き下げられることにより節税につながるからです。

新ルール案は「乖離率を計算」

新たなルール案は国税庁が示した計算式で乖離率をまず求めることがポイントとなっています。

マンションの築年数、部屋の所在する階などに、国税庁が統計上の根拠があるとする一定の係数を掛けて算出していきます。総階数指数、敷地持ち分狭小度といった項目も必要となりますが、いずれも登記簿などに記載されている情報を基に計算することができます。

乖離率が約1.67倍以上なら現在のルールに基づく評価額に乖離率を掛け、その6割を新たな評価額とするという案が示されています。

冒頭のAさんの例で試算すると乖離率が約3.3倍と1.67倍を大きく上回ります。現在の評価額に乖離率と0.6を掛けた結果、相続税が発生することになります。

新ルール案で見逃せないのは相続税の節税を図る富裕層に加えて、「居住目的でマンションを購入した中流層の一部で課税されたり、課税額が増えたりするケースが想定される」(ランドマーク税理士法人の清田幸弘代表税理士)ことだといいます。

階数が20階を超えるようなタワマンだけでなく、10〜20階建ての物件でも都市部の好立地で築年数が数年程度なら、負担増の可能性があるということです。

戸建て住まいでも目配り必要

マンションだけでなく、持ち家が戸建ての人も実勢価格と相続税の課税評価額に関心を持っておきたいものです。

国税庁が戸建ての乖離率を調べたところ、2018年の平均値は1.66倍で、2倍以上の物件は約25%ありました。

今回の新ルール案で戸建ては対象外ですが、マンションの評価を見直す以上、戸建ての評価についても税務当局の姿勢が今より厳しくなる可能性は否定できません。

個人の対策方法は?

それでは個人はどのように対策すれば良いのでしょうか?

まず、マンションに住む人は国税庁が示した計算式で新しい評価額を試算してみましょう。相続税が発生する可能性があるなら、現預金などの財産を相続人に生前贈与するのが選択肢のひとつです。

生前贈与することで「相続財産全体で税負担を軽減することが期待できる」と辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士は助言しています。

戸建ての相続税評価額は路線価に土地の面積を掛けて土地の評価額を出し、建物の固定資産税評価額と合計するのが基本となります。

評価額が周辺の取引価格の6割を大幅に下回るようなら、「現行の評価額のままで相続税の申告をすると税務署から指摘を受ける可能性があることを心得ておきたい」と税理士の藤曲武美さんは話しています。

まとめ

国税庁が公表したマンションの相続税に関する新たな算定ルール案ですが、導入時期は2024年1月からの可能性が大きいようです。

相続税対策として活用される「20階を超えるようなタワーマンション」だけではなく、「中流層の居住目的の10〜20階建てマンション」でも、立地や築年数によっては税負担が増加する可能性があるということですので、国税庁が示した計算式で新しい評価額を試算し、税負担が発生・増加する人は何らかの対策を施す必要がありそうですね。

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