さよなら年金手帳 マイナカードへの移行は道半ば
こんにちは、ディアパートナー行政書士・FP事務所 代表の瀧澤です。
本日は、あの「年金手帳」がなくなるという話です。
現在の日本では、国民皆年金制度になっていて、20歳になると全員が加入することになっています。この公的年金の被保険者(加入者)の証しなのが年金手帳なのです。縦約15センチメートル、横約10.5センチメートルの薄い手帳仕様。
「重要書類」だけど手元にない場合も多い
自営業者の国民年金と、勤め人が入る厚生年金などを1冊で管理して、転職して加入する年金が変わっても一元管理する狙いで導入されました。色は発行時期によって2種類。1974年から96年までの間に発行された手帳の表紙はオレンジ色で、97年以降は青色となっています。(私はオレンジ色です!)色以外、中身はほぼ同じ仕様。氏名・生年月日・性別など個人の基本情報と年金加入年月日、そして基礎年金番号が記載されています。
公的な身分証明書としても使えるし「重要書類らしい」との認識は共通しています。実際、手帳には「将来年金を受け取るために必要となりますので大切に保管して下さい」の注記もあるのですが・・・。しかし、実際に何がどう大事で、いつ使うのか……考えてみれば不思議な存在ではあります。なんせ会社員の場合、会社に提出していて手元にない人も多いといいます。「家で紛失されると会社が再交付手続きをしなくてはならず面倒だから」(ある大企業の実務担当者)だそう。
役割は記録と番号通知
その年金手帳が来年4月施行の「年金改革法」に基づき廃止されることになっています。今までは国内居住者が20歳になり、自動的に国民年金被保険者になると保険料納付書と同時に手帳を送っていたが、これを廃止するというものです。
しかし、既に発行済みの手帳については「基本的には何も変わらない」(日本年金機構)とのこと。会社は今後も手間暇とスペースをかけ、保管することになりそうです。
改めてこの年金手帳の役割を確認すると以下の2つとなります。
①保険料納付の記録
この機能は、既に導入当初から形骸化していました。記入欄こそあるが、実際には手帳に印字して使ったりはせず、システム上の管理で完結しているのが実態です。
②基礎年金番号の本人への通知
この基礎年金番号(4桁と6桁に分かれた10桁の数字)は年金制度加入時に割り振られ、生涯変わらない「1人に1つ」の固有の番号として、個人と年金記録をひもづけるというものです。
基礎年金番号は既にマイナンバーとひもづいている
こちらは今後も変わらず重要らしいのです。来年以降は手帳の代わりに「基礎年金番号通知書」が発行されることになります。厚労省の資料によれば「年金手帳の代替として年金制度の象徴となるようなシンボリックなもの(色つきの上質紙など)とすること」「手元に丁重に保管してもらうため(略)大臣印の印影をいれること」が検討されているということです。
それってマイナンバーカードでよくない?
2016年から行政手続きで使われているマイナンバーは、これまた日本に住む全員が持つ生涯変わらない「1人に1つ」の固有の番号です。こちらは12桁で現状では税と社会保障と災害対策の3分野で使われています。もちろん年金記録とはバッチリひもづいており、住民基本台帳ネットワークが基なので結婚や引っ越しで住所や名前が変われば年金情報にも反映されています。いまや会社での年金手続きも含め、ほとんど全ての公的年金の手続きがマイナンバーだけで可能な状況です。
マイナンバーカードの普及は3人に1人
個人もプラスチック製のマイナンバーカードがあれば、ポータルサイト「マイナポータル」を通じて日本年金機構が運営する「ねんきんネット」とつながって、パソコンやスマホでいつでもどこでも自分の年金記録を確認できるようになっています。
ところが、肝心のマイナンバーカードの普及率はようやく3人に1人になった段階ですので、残りの3人に2人がねんきんネットに入るときに、依然必要なのが基礎年金番号ということになります。
しかし、自分の基礎年金番号を理解して把握している人は案外少ないのです。番号が分からなければどうするか? 機構のQ&Aサイトによると「年金手帳を見る」「(年金手帳を保管している)会社に聞く」とあります。マイナンバーが普及すれば不要ともいえる番号を確認するために紙の「手帳」がいるとは……
複雑怪奇な年金関連ナンバー
そもそも年金回りのナンバーは複雑で不可思議なことが多すぎるようです。例えば年に一度誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」ですが、これには基礎年金番号は記載されていない代わり「照会番号」が書いてあります。これを使えば、ねんきんネット専用電話や年金事務所経由で基礎年金番号を郵送で送ってもらえるといいます。
なぜ基礎年金番号そのものを載せないかというと、定期便にはねんきんネットの登録に必要なもう1つの番号「アクセスキー」を記載しているからだといいます。定期便に両方を記載してしまうと「第三者がご本人様になりすまして『ねんきんネット』を利用する危険性が高くなるため」とQ&Aにあります。ご丁寧にアクセスキーには3カ月という有効期限もあり、それを過ぎると、ねんきんネットを利用するために郵送でのやり取りが必要になります。完全なDX化への道のりは遠いといわざるを得ませんね。
マイナンバー、給付金や相続に 新制度で手続き円滑に
ここにきて、政府はマイナンバーカードの普及を後押しするため、利用範囲の拡大に努めています。
デジタル庁の設置などを盛り込んだデジタル改革関連法案が可決・成立し、個人がマイナンバーを利用すると公的給付の受け取りや相続の手続きが円滑になる制度が新設されることになっています。確定申告や戸籍の分野でも既に電子化は始まっており、マイナンバーの利用範囲が一段と広がるとみられます。
「マイナンバーやマイナンバーカードの利便性を高めようとする施策が目立つ」と、行政のデジタル化に詳しい日本行政書士会連合会理事の野田昌利氏はデジタル改革関連法について話しています。
前述のとおり、マイナンバーは国民一人ひとりに割り当てられた12桁の番号のことですが、番号と行政手続きに必要な個人情報をひも付けることで、国の行政機関や地方公共団体の間で情報のやり取りを効率化できるます。個人も手続きの際に提出書類が減るなどの効果が期待されます。
マイナンバーカードは本人の氏名、写真とともにマイナンバーを記載したプラスチック製のカード。ICチップに本人確認のための電子証明書を搭載していて、これまではマイナンバーの利点が分からないといった理由から「確定申告や住民票の取得など使われる場面は限られていた」と野田氏は指摘しています。今回のデジタル改革関連法は個人の利用を後押しする狙いがあります。
公的給付を迅速に受け取り
まず注目したいのは、公的給付受取口座の登録制度です。個人が公的給付を振り込んでもらう金融機関・支店・口座番号などをマイナンバーとともに届け出ます。あくまで個人の任意で義務ではないが、政府や自治体に振込先を事前に知らせるため、公的給付を迅速に受け取ることが期待できます。
登録するには
①マイナンバーカードを使って政府の情報サイト「マイナポータル」で申請
②口座がある金融機関で申請
③確定申告の還付金や児童手当などすでに公金を受け取っている口座を指定 の3つがあります。
いずれも2022年度から23年度にかけて登録を順次始める予定です。③の具体的な登録方法は今後詰めるようですが、確定申告なら申告書に登録希望の記入欄を設ける案が出ています。
口座登録制度を新設するのは、新型コロナウイルスの感染拡大で行政のデジタル化の遅れが浮き彫りになったためです。特別定額給付金の支給の際に個人は郵送やオンラインで手続きをしたが、自治体が振込口座の番号確認などに手間取り、給付が遅れる一因となりました。
預貯金口座すべてと任意でひも付け
個人にとっては預貯金口座の管理制度も大きいとみられます。自分のすべての預貯金口座とマイナンバーを連携させる仕組みで、2024年度の開始を目指しています。
このメリットの一つが相続手続きの効率化です。相続では相続人が故人の財産すべてを分ける必要がありますが、財産の全容を遺言などで明記しているケースは少ないといいます。「亡くなった親の口座がないかどうか心当たりの金融機関ひとつひとつに子どもが確認する例は多い」と専門家は話しています。
新しい制度ではこうした煩雑さが解消する見込みです。
具体的な事例をみてみよう
まず被相続人のAさんは取引がある銀行の 1つにマイナンバーで口座を管理することを申し出ます。マイナンバーのほかに氏名、住所、生年月日といった本人を特定できる事項も伝えます。
申し出を受けた銀行はAさんの情報を預金保険機構に通知します。預保機構は原則すべての金融機関にAさんの口座の有無を照会し、口座がある金融機関にAさんのマイナンバーを提供。Aさんの死後に長男が銀行に問い合わせると、預保機構を通じてすべての口座の情報を通知してもらえます。長男は個別の金融機関に照会する手間を省くことができます。
こうした仕組みは災害で預金通帳やキャッシュカードなどを紛失した場合でも有効になります。マイナンバーで本人確認ができるため、預金口座から生活資金などを引き出すことが可能になるのです。
公的機関の預保機構が介在することで政府が預貯金の内容を把握できるようになったり、税務調査の対象になりやすくなったりするとの懸念は強いのですが、現行の法律では国が残高をみることは原則できないことになっています。
税務当局も脱税の可能性などはすでに税法に基づいて調査できるようになっているのが実情です。「マイナンバーと預金口座のひも付けが理由で税務調査が増えることは考えにくい」とする専門家は多いようです。
関連法にはマイナンバーカードの手続きでも改善策が盛り込まれています。カードを電子申告・申請などで使うにはカード発行時に電子証明書を搭載し、5年ごとに更新することが必要です。
現在は自治体の窓口で発行・更新をしているが、指定の郵便局でも取り扱えるようにします。特別定額給付金の手続きで自治体の窓口に発行・更新を希望する人が殺到したほか、ふだんでも窓口が混雑する傾向があることに対応するものです。
進む行政手続きのデジタル化
マイナンバーカードの累計交付枚数は21年4月時点で約3600万枚、交付率は30%弱にとどまっています。政府はカードの普及を後押しするため、デジタル改革関連法以外でも行政手続きのデジタル化を進める方針です。
カードを健康保険証として利用する時期は当初の3月から10月に延期されたものの、利用できる機会は極めて少なくなりそうです。予定では、来年の確定申告から医療費控除がマイナポータルを通じてできるようにするということですし、法務省がすでに着手した戸籍システムの再構築も23年度に完成する予定だそうです。マイナンバーと戸籍情報をひも付け、本籍地以外の市区町村からも相続手続きに必要な戸籍謄本を請求できるようになるということです。
まとめ
国の予定どおりとはいかないことも多そうですが、後退することは全体ないデジタル化。私たちも早くから慣れ親しむ必要がありそうです。
とりあえずはマイナンバーカードの交付率の向上でしょうかね。被災した場面でも活躍が期待されるマイナンバーカード、未交付の人は早く手に入れていただきたいと思います。