定年退職・再就職について考える!(公務員編)
ディアパートナー行政書士・FP事務所 代表の瀧澤です。
今回は、公務員の「定年退職」と「定年退職に伴う再就職」について考察します。
5月末日、長野県職員の「退職職員の再就職状況」が公式ホームページにプレスリリースされました。長野県の教職員及び警察職員も同日、公式ホームページにプレスリリースされました。
これは、長野県を退職した職員の再就職について、公正性、透明性の向上を図り、退職管理の適正を確保するため、「再就職した元職員による依頼の規制等に関する条例」の規定に基づき、その状況を公表するものです。
公表の対象者は、令和2年度中に退職した職員で、令和3年4月 30 日までに再就職に関する届出のあった者です。具体的には、昨年6月~今年4月末日までに、自治体や団体、会社などに再雇用された元長野県職員の退職者が届出を出したものを集計した結果です。ただし、引き続き、長野県職員に再任用された者は、届け出は不要となっています。(PDF資料とともに「氏名」や「再就職先」、「再就職先での役職」なども公表されています。)
また、私のように、フリーランス(個人事業者)として独立している者も届出は不要となっています。
公表される項目は、「退職職員の氏名」、「退職時の職名」、「退職日」、「再就職日」、「再就職先の名称」、「再就職先における地位」、「再就職に当たっての県の関与の有無」です。したがって、長野県職員を退職して、再就職をすると、こうした項目がリリースされるのです。(見ている人は少ないでしょうが、現役の県職員(特に定年退職が近づいている人)や県職員OBはしっかりとチェックしています!)
今回のリリースによりますと、2020年度に退職した一般行政部門の長野県職員399人(この中には私も含まれています)のうち、4月末までに再就職したとの届け出があった者は110人で、名前や再就職先が公表されました。
このうち、退職職員の情報を企業・団体側に提供する「県職員セカンドキャリアセンター」による紹介などで県が関与した再就職は、前年度より16人少ない42人でした。
県出資などの外郭団体への再就職者数は、求人数が例年より少なかったため、前年度より3人減の36人でした。このうちで、部課長級(私も前職ではこの階層)は3人増の29人でした。
長野県では、原則、外郭団体の役員採用について公募を要請していますが、業務が密接に関連していることなどで、県が再就職先を紹介したのは、県道路公社や県社会福祉協議会など8団体の9人でした。
長野県警察と長野県教育委員会も、2020年度に退職し、4月末までに再就職を届け出た元職員のうち、退職時に管理職だった者の名前や再就職先を公表しました。警察・教職員と県職員との違いは、警察・教職員が管理職のみの公表にとどまるのに対して、県職員は退職時の役職に関わらず、全員が対象となる点です。
したがって、県警の対象者は、16人で再就職先は県交通安全協会や警備会社などが目立ちます。県教育委員会は7人で、私立高校の校長・教頭や市町村教育委員会などでした。
長野県職員の退職者399人のうち、今回の公表以外で気がついた点を挙げたいと思います。そのことは、今後の「公務員の働き方」にも関係してくるのではと考えています。
県職員の再雇用はそれほど多くない?
退職者399人から再就職者110人を除くと、残りは289人です。この289人の人はどのような進路をチョイスしたのでしょうか?
「県職員の再雇用(再任用職員)」が多いのではないかとお考えかもしれませんが、再任用職員はそれほど多くはありません。再任用職員は最大で65歳まで再任用されますので、毎年一定人数が再任用職員となっていますが、この289人という数字よりはかなり少ない数字です。(きっと1/9~1/10くらいの人数だと思います。)
3月後半に発表される「4月1日付異動内示メモ」には、「再任用職員」はそのカテゴリーで内示メモに記載されていますが、それほど多い人数ではないのです。ましてや、65歳~61歳までの方が記載されているわけで、単年度ではその1/5くらいになるハズです。
きっぱりとリタイヤも少ないのでは?実家が農家でも
仮に89人が再任用(この数字は絶対にないと思います、実際はもっと少ない数字でしょう)したとして、残りは200人。きっぱりとリタイヤしてしまったのでしょうか?
同期の退職者として、それはないのではないかと思います。
長野県は農家数が多いので、実家が農家であって「実家の農作業を引き継いで行う」というのが多いかもしれませんが、200人という数字ではないと思います。同年代であるが故、そう理解できるのですが、私たちの親世代ですと、90~80歳代後半でしょう。
そうすると、子世代(退職者60歳)が定年退職するまで、親世代が現役でバリバリと農作業をやれる体力のある方々はほとんどいないのではないかと思います。私の両親も5年前、55歳の時に相次いで亡くなっています。
・・・とすると、本当に休日農業でなんとかしのげる規模の農業(経営までいかずに米作以外は自家用のみ程度)ではないかと考えられます。したがって、生業として農業(家業)に打ち込むような規模ではない方が多いと思います。
このような規模の農家ですと、時間つぶしにはなりますが、公的年金受給までの4年間(今年の定年退職組の公務員は、男女とも64歳から特別支給の厚生年金が受給できます)は、ほぼ無収入になりますので、財形年金や個人年金によって「60歳から63歳までを食いつなげる人」でないと厳しいのではないかと思います。
ましてや、公務員という地方では比較的給与水準が高い状況下で、長年暮らしてきたわけですので、なかなか出費を抑えるのは難しいのではないかと考えます。
フリーランスとして再就職は?
そこで考えられるのが、個人事業者として生業を得る方法です。
会社に再就職すれば、肩書が代表取締役であろうと「再就職」のカテゴリーに分類されます。
個人事業者=フリーランスとして仕事を得れば、今回公表された届出の対象外になります。実際、私の1年先輩がこのような身分で仕事を業務委託契約という形で業務を請け負っています。
業務委託契約している事業者の事務所内に、デスクが確保され、携帯電話やパソコン、自動車なども貸与されており、はた目から見れば、その事務所に勤務しているように見えますが、契約上はフリーランスという形で勤務(?)しています。
ただ、フリーランス=個人事業者ですので、健康保険については、国民健康保険か任意継続をチョイスすることになります。定年退職する公務員ですと給与水準が高いため、退職1年目の国保料は高額になり、任意継続を選ぶ方が有利な人が多数でしょう。知人の先輩も任意継続をチョイスしたそうです。
また、企業に属していないので、厚生年金も加入できません。私たちの年代は、大学生の時の20歳以上から就職期までの間の国民年金の保険料納付は任意であったため、その間の国民年金未納の人が多いのです。知人の先輩も、国民年金に特別加入されて、掛金不足の部分を現在掛金納付しています。そういう方々には好都合かもしれませんね。(おかげで満額の国民年金が支給されると喜んでいます!)
任意継続健康保険証は「2年間」のみですので、知人の先輩は来年度からは国民健康保険に加入することになります。その方は、今、個人としての所得をなるべく減らせるような工夫をおこなっているそうです。
例えば、
①小規模企業共済への加入(掛金が全額所得控除の対象となる)
②青色事業専従者に支払う青色事業専従者給与の活用(同居の配偶者を青色事業専従者とする)
③その他個人事業者としての経費支払い(対象経費に計上する)
などにより、所得を少額に抑えて、国保料が高くならないように今から準備しているそうです。
このように、県の紹介によって、フリーランスとして業務委託契約をしている者が少なからず存在しているものと思われます。
退職前に私が聞いている情報によると、「内輪で出回った定年退職者の再就職先リスト」に載っていた方々で、今回の公表にお名前が出てこない方々が少なからず存在しますので、その方々は、「業務委託契約を結んだフリーランス」として勤務(?)されているのだと思われます。
だだし、この裏情報、かなりいい加減なものかもしれませんね。私の欄には再就職先が「民間企業」と記されていたようですので・・・(この時点では「家居」として県には提出しておりました(笑))
中には「気を吐いた」退職後「起業者」もいた!
今回公表された再就職先リストの中には、起業したと受け取れる方も記載されていました。
その方は、農業試験場に勤務されていた農業技術の方です。3月末日退職で、4月8日に合同会社に代表社員として再就職しています。会社名にその方の名字が含まれていますので、おそらく一人合同会社を設立(または配偶者と2人で)したものと考えられます。
会社等の法人名称は「法人番号検索サイト」で検索できるので、その合同会社名を検索したところ、所在地は、長野県内ではなく、北関東の県でした。この会社名は日本国内に北関東の県にしか存在しなかったので、他県で起業したのでしょう。しかも設立登記は、4月13日になっていました。5日間で設立登記の準備をしたのでしょうか。(本来であれば、登記された4月13日が再就職日なのでしょうが、定款作成日が4月8日だったのでしょうね~)
他県出身者で、ご実家があるのでしょうか。長野県出身で他県で起業したとなると大したチャレンジですね。(配偶者の出身地かもしれませんが・・・)ただし、この方が定年退職なのか、早期退職制度を活用したのかは不明です。どっちも可能性があるような前職の肩書です。
4月に法人設立登記となると、きっと決算期は3月ではないか類推されます。農業技術の方ですので、きっと農業系事業を行う(あるいは農業そのもの)ための会社設立なのでしょうね。
きっと健康保険も「任意継続」にしておいて、4月8日からは「健保」加入しますと、任意継続の掛金は全額返金されますので、4月1日から4月7日までの1週間は、タダで健康保険に加入できたということでしょう。よく研究されていますね。
それともう一つの流れです。
それは、「定年退職の年齢を待たずに再就職先へ就職」というパターンです。
我々の年代よりも若干若い方が、再就職をしていました。「定年退職者が増加傾向にありながら、再就職先はあまりない」状況が近年続いています。・・・というよりは、再就職戦線は、年々厳しくなっている状況にあります。
就職先は、現職とほぼ同じ職種で、勤務先も同一市町村です。再就職先で65歳まで勤められるとしたら、声を掛けられているうちに再就職するというのは、今後も出てきそうな流れです。(定年退職まで待っていたら、その就職先の椅子には誰かが座っていることになりますので・・・)
まとめ 定年退職で業務委託契約を結ぶフリーランスは今後増える!
2021年4月1日施行の高年齢者雇用安定法改正で65歳から70歳までの就業機会を確保するため、 以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました(高年齢者雇用安定法10条の2第1項)。
65歳から70歳までの就業機会確保義務(努力義務)
① 70歳までの定年引き上げ
② 定年制の廃止
③ 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
④ 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
⑤ 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業
上記のうちの「④70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入」を受けて、「定年退職者に対して業務委託契約を締結するケース」は、今後ますます加速していくのではないでしょうか。
身分上はあくまでもフリーランスですので、企業側も、いざとなれば「業務委託契約を更新しない」という手段も使えますし。
民間企業・公務員を問わず、今後、「働き改革の進展」の中で、この「業務委託契約」も活用されていきそうです。