iDeCo受取方法は退職金と併せて検討を!

 ディアパートナー行政書士/FP事務所 代表の瀧澤です。

 事務所の取扱い業務として、「自分年金づくり」などのコンサルティングを行っていますので、iDeCoの受取り方法について考えてみましょう。

 今回のテーマは、「サラリーマンのiDeCo受取方法は退職金と併せて検討を!」です。

 確定拠出年金は、2017年の法改正により個人型の加入資格者が拡大し、人生100年時代を支える老後資産として存在感が際立ってきました。

 特にこれまでは加入者の多くが自営業者など退職金のない人がほとんどでしたが、退職金がある会社員も加入できるようになったことから、退職所得控除を上回ったり、受け取り方によっては課税額が変わるケースも生じています。

 確定拠出年金の受け取り方に注目して、そのポイントを考察していきましょう。

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iDeCoは受取時期、受取方法を自由に選べる

 確定拠出年金には、企業型と個人型(iDeCo)の2種類がありますが、受取時の取り扱いはどちらも同じですので、今回はiDeCoとして進めていきます。

 iDeCoは10年以上の加入期間がある場合60歳になると受給権が発生します(60歳までに10年以上の加入期間がない場合最大65歳まで延長)。

 ⇒ 私(60歳)の場合は、前職が公務員であり、iDeCo加入は、2017年に制度が拡充してからの加入でしたので、64歳からでないと受取れません。しかも、あまりにも加入期間が短かい(現在は60歳未満まで加入ため約4年間加入)ので、加入の目的は「積立による年金形成」というよりは、「小規模企業共済等掛金控除(個人型確定拠出年金)」を活用した「給与所得の削減」でした。

 私たちの世代ではこのような状況が発生しますが、20~40代の皆さんには、働き盛りの時間がまだ多く残されています。それに加入可能な年齢は、2022年に「60歳未満から65歳未満」に延長されますので、「積立」と「減税」の効果は大きいものがあります。

 さて、加入者が60歳を迎え、受給権が発生すると、加入者は60歳から70歳までの間の任意のタイミングで資産を引き出すことができます。

 資産の引き出し方法は3種類。一括、分割、一括と分割の併用です。

 一括で受け取る場合は退職所得控除、分割で受け取る場合は公的年金等控除が適用されるというのは、多くの方がすでに学ばれているところかと思います。

 今回のポイントは、iDeCoの資産は「会社を退職していなくても退職金扱いとできる。公的年金を受給していなくても公的年金扱いとできる」という点。つまり、受取時期、受取方法を自由に選択できるという大きなメリットがあることです。

一時金は「退職所得控除」、分割は「公的年金等控除」の対象

 退職金にかかる税金は、以下のように計算します。勤続年数が長くなればなるほど課税所得が減り受取金額が増える、また、課税されたとしても分離課税であるため、他の所得(例えば給与所得など)と合算されることはなく、税率を抑えることができます。

図表1

 iDeCoの場合、その加入期間を勤続年数と読み替えます。加入期間とは掛金を拠出した期間であり、運用のみを行う運用指図者の期間は加入期間とはなりません。 ⇒ 現在60歳の私は「運用指図者」となっています。

 退職所得控除は対象期間が勤続20年までは控除額が1年あたり40万円、20年超になると70万円と上がるため、できるだけ加入期間は長い方が有利です。

 さらに退職所得控除は1カ月でも1年とカウントすることから、所得控除の対象とならない運用指図者期間はできるだけ少なくするようにした方が良いケースも多いでしょう。

 例えば、経済状況が悪く、掛金を拠出できないという人の場合には、

①iDeCoの最低掛金5000円での継続ができないか

②掛金捻出のための家計の改善方法がないか

③転職時に企業型からiDeCoへ移換する場合は6カ月を経過すると国民年金基金連合会へ自動移換されてしまい加入期間からはずれてしまうのでその期間内に掛金を拠出する

などの早急な対応が必要になります。

 iDeCoを分割で受け取る場合は、公的年金等控除の対象となります。65歳より前に特別支給の老齢厚生年金を受給している場合はそれと合算されますが、男性は昭和36年4月2日以降、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方は特別支給の老齢厚生年金の支給はありません。

 したがって、男性は昭和36年4月2日以降生まれの方、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方は、使われることのない60歳代前半の公的年金等控除の枠は、iDeCoの受け取りで上手に活用したいものです。

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図表2

「iDeCo受取り」で大事な5つの事例

◆CASE1 同時に受け取る場合は控除額が大きい方が優先される

 60歳で会社の退職金とiDeCoを同時に受け取る場合、金額は合算されますが退職所得控除の対象となる期間が重複する場合は、どちらか一方(控除額の大きい方)が優先されます。

 たとえば下図の場合、期間が長い会社勤続の30年が対象期間となるため、退職所得控除額は1500万円です。退職金1300万円とiDeCo500万円の合計から1500万円を引き、2分の1とした150万円が課税額となります。

図表3


◆CASE2 60~64歳は公的年金等控除をiDeCoで活用

 iDeCoは一括と分割の併用受け取りが可能なため、退職所得控除と公的年金等控除を合わせて使うことができます。そのため前述のとおり特別支給の老齢厚生年金の支給がない世代(※)は、使われることのない60歳代前半の公的年金等控除の枠をiDeCoの受け取りに活用することができます。

(※)男性は昭和36年4月2日以降生まれの方、女性は昭和41年4月2日以降生まれの方

 下図の場合、退職時は退職金1300万円とiDeCoの一部200万円を受け取り、iDeCoの残り300万円は60歳から毎年60万円ずつ5年間に分けて受け取れば、65歳未満の場合、公的年金等控除は60万円まで非課税ですから、いずれも課税されずに受け取ることができます。

図表4


◆CASE3 退職が65歳ならiDeCoを先(60歳)に受け取る方法も

 退職金を4年以内に複数受け取る場合、退職所得控除の対象となる期間のうち重複している部分は控除額の計算から除外されますが、4年超受取時期をずらすとそれぞれの退職所得控除を受け取りの際に使うことができます。

 つまり、退職が65歳の場合は60歳時にiDeCoを受け取れば、iDeCoの加入期間に応じた退職所得控除が適用されます。下図の場合は加入期間が15年であるため退職所得控除額は600万円となり、iDeCoは課税されません。ただし退職所得控除は1カ月でも1年とカウントすることから、「5年期間をずらす」と良いでしょう。

図表5


◆CASE4 「退職金<退職所得控除」の場合は、みなし勤続年数を計算

 複数の退職金を受け取る場合、一般的には退職所得控除の重複期間は4年で調整されますが、iDeCoだけは受取時期を自由に選べるためiDeCoを後で受け取る場合の退職所得控除の重複期間の調整は受取前の14年とされています(CASE3同様に退職所得控除は1カ月でも1年とカウントすることから、15年と覚えておくと無難です)。

 つまり退職金を受け取った後の61歳から70歳の間にiDeCoを受け取ると、退職所得控除は最低の80万円しか適用されません

 ただし、退職時に退職所得控除が使い切れなかった場合は、下図の方法でみなし勤続年数を算出し、その分をiDeCoの受け取り時に適用することができます。
図表8

 下図の場合のみなし勤続年数は「(1300万円-800万円)÷70万円+20年=27年」となり、勤続年数-みなし勤続年数の3年分は、iDeCo受取時の退職所得控除に適用することができます。

図表6


◆CASE5 2022年からはiDeCoを後で受け取っても退職所得控除の対象になる場合も

 iDeCoは70歳までに資産の受け取りをすることになっているため、会社の退職金より後にiDeCoを受け取ると、CASE4で説明した15年ルールが適用され重複期間の退職所得控除が使えなくなります。

 しかし2022年の制度改正によりiDeCoの受け取りが75歳まで可能になると、下図のようにそれぞれの退職所得控除をフルに活用して受け取ることもできるようになります。

図表7

ライフプランを都度見直して幅広い視点で対策を

 以上がiDeCoの受け取りにおける5つの基本的な事例です。

 しかしながら実際の現場では、かなり複雑な案件も出てきます

 先ほどは会社の退職金が一時金のケースでしたが、企業年金(厚生年金基金や確定給付企業年金)が支給される場合もあります。こちらは会社により、有期年金、終身年金などバリエーションがあり、いくつかのパターンから選択できるようになっている場合もあります。また公的年金の受け取り方によってもケースは異なってきます。前段で特別支給の老齢厚生年金の例を挙げましたが、他にも繰り上げをする、繰り下げをするなどによっても、適切な受け取り方は変わるでしょう。

 2022年からは、iDeCoの加入は65歳まで、企業型の加入は70歳までと拡大されます。もちろんiDeCoは国民年金被保険者であることが加入の条件であるため、第1号被保険者は60歳以降は任意加入していなければiDeCoに加入できませんが、第2号被保険者であればより長く積み立てを継続することが可能です。

 また、会社のルールにもよりますが、企業型確定拠出年金に70歳まで加入し続ける人も出てくるでしょう。同時に公的年金の繰り下げも75歳まで可能となりますから、iDeCoの受け取りと合わせてより多面的に考える必要がでてきます。

 そして、その人のライフスタイルや資産の状況、家族構成などにより、時代とともに変化してきますので、「ライフプラン」全体を時折、点検していくことが大切です。

 特に、2022年の制度改正のような制度の見直しが今後も行われるはずですので、制度改正が行われる際は、iDeCoに限らず、ライフスタイル全体を見直していく必要があります。

 日本には、「ライフプランの見直し」や「資産形成」について、専門家のアドバイスを受けるという文化はあまり根付いてはいませんが、「長期の資産形成」や「今後発生する相続」などの対策は、総合的かつ長期的に対策(戦略)を練っていくことが大事です。

 「相続対策」についても、一次相続だけを考えるのではなく、二次相続にも対応した総合的な対策を事前に行っていくが肝要です。

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【参考出典:日本FP協会「いまどきウォッチング」】

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