70歳まで働ける企業の受け皿づくりは?
ディアパートナー行政書士/FP事務所 代表の瀧澤です。
共同通信社が国内の主要110社に行ったアンケートによると、希望者が70歳まで働ける環境づくりについて、59.1%の企業が「検討中」と回答しました。
政府は70歳までの就業機会確保を企業に求める法律を4月に施行しましたが、新型コロナウイルス感染拡大で経営の先行きが見通せず、思惑通りに進まない状況が浮かんだ状況です。
政府は70歳までの働き方の選択肢として、既に65歳までの働き方に義務付けられている
①定年制の廃止
②定年の延長(定年年齢の引き上げ)
③継続雇用制度の導入
に加え、趣味やライフスタイル、体調に合わせて柔軟に働けるよう
④起業した人やフリーランスに業務委託
⑤労働者が関わる社会貢献事業を支援
を新設しました。
各企業が①~⑤のどれを選んだかを複数回答で尋ねたところ、③の「継続雇用制度の導入」が全体の31.8%。②の「定年延長」が5.5%と続きました。
④の「起業した人やフリーランスに業務委託」は1社。⑤の「労働者が関わる社会貢献事業を支援」はゼロでした。
「検討中」とした企業は、理由に「業績が厳しく、コロナなどで先が読めない」(流通)、「時期を含めて慎重に検討したい」(運輸)など先行きの不透明さを挙げました。「人件費への影響を検討する必要がある」(金融)との懸念も上がりました。
政府は、勤め先と雇用契約を維持したまま労働者が他社で働く「在籍出向」の利用を後押ししており、経営難の企業と人手不足の企業の連携に期待しますが、45.5%の企業が「検討の考えはない」と回答しています。
「企業間の調整や対象者の選定など調整事項が多岐にわたる」(製造)など二の足を踏む企業が多く、実施企業は30.9%にとどまりました。
このアンケートは今年3月上旬から実施され、4月中旬にかけて回答を集計したとのことです。
政府が70歳雇用を推進する最も大きな理由の一つは、「少子高齢化の進展による労働力不足に対応」するためと考えられます。
2018年2月1日現在の日本の総人口は1億2,660万人で、ピーク時の2008年12月の1億2,810万人に比べて150万人も減少しています。10年間で川崎市(2017年約147万人)規模の人口が減少した計算です。さらに、厚生労働省は、2019年に生まれた子どもの数は、過去最少の約86万4千人になり、2019年の人口は前年に比べて約51万人減少すると予想しました。
一方、労働力人口は、女性や高齢者の労働市場への参加が増えたことにより、2013年以降はむしろ増加しています。しかし、15〜64歳の生産年齢人口の減少は著しく、日本における2016年10月1日現在の15〜64歳人口は、約7,656万人と、前年に比べ72万人も減少しました(図表1)。
このように少子高齢化が進展し、労働力人口が減少している中で、政府は定年延長を推進し、労働力確保や経済の活性化を目指すことになったと言えます。
政府が定年延長を推進するもう一つの大きな理由は社会保障制度の持続可能性を拡大するためと考えられます。
2017年度の年金、医療、介護などに充てられた社会保障給付費は116.9兆円と前年度に比べて1.3%増加しました。さらに、高齢者人口が4千万人近くなり、ピークに達すると予想される2040年には社会保障給付費は約190兆円に増加すると推計されています。
このままだと、社会保障制度を支えている生産年齢人口は減少しているのに、主な給付対象である高齢者だけが増加し、社会保障制度を維持することが難しくなる。そこで、政府は定年延長を推進し、社会保障財政の安定化を志向することになったと考えられます。
一般社団法人定年後研究所が、定年制度のある企業に勤務している40代・50代男女、および、定年制度のある企業に勤務し、60歳以降も働いている60代前半男女、合計516人を対象に実施したアンケート調査(2019年6月4日)によりますと、「70歳定年」(70歳定年あるいは雇用延長)について「とまどい・困惑を感じる」(38.2%)や「歓迎できない」(19.2%)と回答した、あわゆる「アンチ歓迎派」は57.4%で、「歓迎する」と回答したいわゆる「歓迎派」の42.6%を上回りました。
「とまどい・困惑を感じる」最も大きな理由としては「収入が得られる期間が延びてよいが、その分長く仕事をしなければならないから」(65.5%)が、また「歓迎できない」最も大きな理由としては「自分としては60歳あるいは65歳以降は働きたくないから」(65.7%)が挙げられました。
年金の給付を含めた老後の収入さえ確保できれば、労働者の多くは60歳あるいは65歳定年を迎えて労働市場から離れ、余暇を楽しみたいと考えているものと思われます。
一方、金融庁の金融審議会は、夫婦の老後資金として公的年金だけでは「約2,000万円不足する」という試算結果を示し、不足分を補うためには資産運用などの「自助」の充実が必要と訴えたことは記憶に新しいところです。この報告を聞いた労働者の多くは「いつまで働かなければいけないのか」という不安を抱くことになったことでしょう。
このアンケート調査結果の後に、コロナ禍に襲われていますので、今、アンケートを行えば、ちょっと違った結果になるかもしれませんね~。
いずれにせよ、50歳前半あたりで、自身の後半の人生をどのように歩んでいくのかを、自身の希望や、これまでの経験やスキルも踏まえた上で、また、今後の人生を共に過ごす方がいれば、その人(人々)とも考えを共有しながら、後半の人生設計を、時間をかけて準備していく必要があります。
仕事をしながら、次の人生の歩み方の準備をするのには、結構な期間が必要だと思います。世の中、思い通りにいかないことは多いですが、後半の人生の歩み方はじっくりと自分の意思で考えたいものです。
しかし、自分の働いている職場の定年制度が段階的に引き上がることを期待しながら、何の準備もないまま、定年間近まで何もしないということだけは避けた方が良いと私は思うのです。
それでも、これからの社会保障問題や労働人口不足を考えますと、社会貢献やボランティアにとどまらず、色々な場面で高齢者がより活躍できる社会の受け皿づくりが求められていくのではないでしょうか。
私も自身の後半の人生の歩み方を時間をかけて考えて、定年退職起業しました。これから15年以上はしっかりと取り組みたいと考えています。でも、準備する時間は、ある程度長い期間あった方かしっかりと準備ができたのではと考えています。(考えるだけで行動を起こさないよりは良いでしょうが・・・)