経営・労働が一体となった「協同労働」とは?
こんにちは、ディアパートナー行政書士・FP事務所代表の瀧澤です。
今回は「働き方改革」の視点から、働く人自身が出資しながら経営にも関わる「協同労働」という新しい働き方をご紹介していきます。(出展:日本FP協会「いまどきウォッング」)
はじめに
働く人自身が出資しながら、同時に経営にも関わる「協同労働」という新しい働き方を実現する「労働者協同組合」が法律に基づいて設立できるようになりました。
企業による雇用とは異なる「協同労働」とはどのような働き方でしょうか。 また、「労働者協同組合」とはどのような組織で、設立するメリットや注意点にはどのようなものがあるのでしょうか。
多様な働き方の選択肢が増えつつある中で、この「協同労働」というのはどのようなポジションになっていくのでしょうか。
「協同労働」とは?
「協同労働」は、働く人(組合員)自らが出資し、それぞれの意見を反映して事業を行い、自らが事業に従事する新たな働き方です。
令和2年(2020年)12月に、協同労働を担う組織である「労働者協同組合」を設立できる規則を定めた議員立法「労働者協同組合法」が成立し、12月11日に公布されたことで、この新たな働き方を実現することが可能になりました。
厚生労働省のウェブサイトでは、労働者協同組合の基本原理について、
(1)組合員が出資すること
(2)その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること
(3)組合員が組合の行う事業に従事すること
とされ、「基本原理に従い事業が行われることを通じて、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とするものでなければならないこと」としています。
労働者協同組合法が成立した背景
昨年末、労働者協同組合法が成立した背景には、「持続可能で活力ある地域社会の実現」という課題に取り組むための新たな組織が求められていることがあります。
少子高齢化が進むなか、介護や福祉、子育て支援、地域づくりなど幅広い分野で、多様なニーズが生じ、担い手が必要とされています。
その担い手となる人々は、それぞれの生活スタイルや多様な働き方が実現されるよう、状況に応じてNPO法人(特定非営利活動法人)や企業組合といった法人格を利用したり、あるいは任意団体として法人格を持たずに活動していました。
しかしながら、NPO法人の場合には出資が認められていないため、寄付や個人からの借り入れに頼ることになり、財務基盤が脆弱になる場合も多かったようです。
また、NPO法人の設立には所轄庁の認証を受ける必要があり、設立までの期間が長いという問題もあります。
企業組合の設立には行政庁の認可が必要であるため、設立までに時間がかかりますし、法人格のない任意団体の場合には、財産が個人名義になるなど、それぞれに一長一短があります。
そのため、出資・意見反映・労働が一体となった組織であり、地域に貢献し、地域課題を解決するための非営利法人を、簡便に設立できる制度が求められていました。
労働者協同組合の場合には出資が認められ、準則主義であるため、法律に定める一定の要件を備えれば法人格が認められます。
この新たな法人形態が法制化されたことで、多様な就労の機会を創出し、地域における多様な事業が行われることを促進することが期待されているのだそうです。
なお、この新たな法人形態の設立には3人以上の発起人が必要となります。
労働者協同組合のメリット
それでは、この労働者協同組合を設立して働くことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
前述のとおり、労働者協同組合は3人以上の発起人がいれば、官庁の認可などは必要なく設立することができます。そのため、地域の多様なニーズに応じた事業を行いやすくなるというメリットがあります。
組合員が出資し合って設立するので、株主などの意向を気にせず、自分たちで事業の方針やルールを決め、主体的に働くことができるでしょう。出資口数にかかわらず議決権や選挙権が平等であるなど、組合員間で影響力の格差が生じないための配慮もなされています。
また、事業に従事する人であっても雇用されない働き方(個人事業者)とみなされて、労働者保護法制や社会保険が適用されない場合もありますが、労働者協同組合の場合には、組合員と労働契約を締結することが定められているため、労働法規の遵守が求められ、雇用保険や厚生年金、健康保険などの社会保険に加入することが可能になってきます。
労働者協同組合法のポイント
労働者協同組合は前出の基本原理のほかにも、備えるべき要件があります。
組合員は加入に際して1口以上出資をしますが、出資1口の金額は均一でなければなりません。原則として1組合員の出資口数は出資総口数の100分の25を超えてはならないとされています。
なお、組合員の議決権及び選挙権は、出資口数にかかわらず平等です。出資口数に関係なく、経営にかかわり、意見を言うことができるといえるでしょう。
組合員は組合の事業に従事する者とされ、総組合員の5分の4以上の組合員は組合の行う事業に従事しなければなりません。事業の繁忙期などに組合員以外の人に働いてもらうこともできますが、組合の行う事業に従事する者の4分の3以上は、組合員でなければなりません。
剰余金の配当は、定款で定めるところにより、働いた時間やポジション、責任の重さなど組合員が組合の事業に従事した程度(従事分量)に応じて行うこととされています。
労働者協同組合では営利を目的とした事業を行ってはならず、出資配当も認められていません。
さらに、組合員が労働者として保護されるよう、労働者協同組合は、組合員と労働契約を締結し、労働法規を遵守する必要があります。
「その事業を行うに当たり組合員の意見が適切に反映されること」という基本原理から、事業への意見の反映が難しい労働者派遣事業を行うことはできません。
また、労働者協同組合では、定款及び規約に関する所要の規定を整備すること、役員として理事(3人以上)及び監事(1人以上)、組合員監査会等を置くことが必要となります。総会や行政庁による監督、企業組合またはNPO法人からの組織変更などに関する規定を置くことも必要になります。
この法律は、一部を除き、公布後2年以内の政令で定める日から施行されるということから、労働者協同組合を設立する場合にも、検討・準備をする時間はまだ十分にありそうです。
まとめ
「協同労働」は、「労働者協同組合」の基本原理に従い事業が行われることを通じて、持続可能で活力ある地域社会の実現に資することを目的とするということから、最近注目されている「兼業・副業」や「テレワーク」などの「多様な働き方」にも影響を与えるかもしれません。
「働き方改革」の進展とあいまって、今後の「多様な働き方」は多くの選択肢が生まれそうですね。これから人口減少社会を迎え、生産人口不足や地域の担い手不足を解消していくには「協同労働」も含めた「多様な働き方」に注目したいと思います。
公務員の兼業・副業に関しても、「地域の担い手不足解消」など、課題の根っこは同じだと感じています。