相続税・贈与税の一体改革で生前贈与はどうなる?
みなさん、こんにちは!「家族信託」に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。
今回は、日経ビジネス(2021年11月16日)に相続税・贈与税の一体改革の記事が掲載されていましたので、それに関して投稿していきます。
「成長と分配の好循環」を経済政策の柱に据える岸田文雄首相ですが、困窮学生への10万円給付や、18歳以下の子どもを対象にした10万円相当の給付策など、コロナ禍で生活に影響が大きいとされる層への支援を手厚くしようとしています。
一方で、岸田首相は分配政策の観点から富裕層には厳しい態度を取ろうとしています。10月の就任記者会見では「金融所得課税の強化」に言及しました。だがその後、株式市場への配慮や衆院選に与える影響を考えてか「当面は触らない」などと発言を撤回しています。
もっとも、金融所得課税に関しては後退したものの、岸田首相が富裕層に対して厳しい姿勢で臨む点は変わらないとみられています。「持たざる者」への支援強化には財源が必要となります。12月半ばに発表される令和4年度税制改正大綱では、いよいよ「あの話」が具体的に動くのではないか──。このような噂が、税理士たちの間で出始めているようです。
あの話って何?
「あの話」とは、2020年12月に発表された令和3年度税制改正大綱で盛り込まれた、相続税と贈与税の課税方法に関する見直しです。人が亡くなった後に財産を受け継ぐ相続と、生前に譲り受ける贈与とでは、財産の次世代への移転という意味では同じだが、税負担の観点から見ると現状は大きく異なっています。これを将来的に一体化して課税する方向に見直すべく、検討を進めると大綱に記載されています。
現在、相続税と贈与税が別々に計算されているのにはきちんとした理由があります。相続税は、財産を受け継ぐ人に相続財産の一部を納めさせることで、富の集中を抑える再分配としての役割を果たしており、相続する財産が多いほど税率が高くなる累進課税となっています。
それに対して、贈与税は富裕層が財産を生前贈与して相続税を逃れるのを阻止するのが狙いとなります。そのため同じ累進課税であるものの税率は相続税に比べてかなり高くなっています。年間に譲り受けた財産の合計額から110万円を差し引いた額に課税する暦年課税が主流となっていました。
しかし、こうした税率構造は富裕層にとっての節税につながっている実態がありました。例えば親の所有財産が1億円で、毎年250万円を子ども1人に10年間暦年贈与し、11年目に相続が発生したとしましょう(毎年同額を同時期に贈るような場合は定期贈与と見なされるため、時期などをずらして贈与すると仮定)。
この際かかる相続税と贈与税の合計は828万円。1億円を一括で相続した場合の相続税が1220万円かかることを考えると、約400万円の節税となります。つまり、長い時間をかけて少しずつ資産移転をすればするほど、税負担を減らせる仕組みになってしまっているのです。
非課税枠縮小で「資産移転」起こらない弊害も
ほかにも「富裕層優遇」と呼ばれる非課税措置は多く設定されています。贈与を受ける者1人当たり1500万円まで非課税になる教育資金の一括贈与に関する特別措置や、最大1000万円を非課税とする結婚・子育て資金の一括贈与などがそれにあたります。
それでは、相続税と贈与税の一体化は、どのような方向で進むのでしょうか。まず考えられるのが「非課税となる範囲の縮小」です。
現在、相続開始前3年以内に贈与された財産は、年110万円の贈与税非課税枠も含めて相続税の課税対象に加えるルールとなっていますが、これを3年ではなく、10~15年まで広げて、暦年贈与制度のメリットを制限する可能性があるといわれています。
つまり、小分けにして贈与することで贈与税を抑えられたとしても、最後に相続税が課税される仕組みになるかもしれないということです。加えて、前述の教育資金や結婚・子育て資金の非課税策も、2023年3月末までの適用期限後は延長されない可能性が高いとみられています。
もっとも、こうした富裕層の節税を封じ込めるために非課税枠を縮小してしまうと、別の問題も浮上してきます。次世代への資産移転が起こりづらくなるという問題の発生です。
被相続人、いわゆる相続する人が80歳以上のケースは、1990年代は40%程度でしたが、足元では約70%まで増えています。相続させる側が80代以上となれば、相続を受ける側である子どもは60代である場合が多いと考えられます。こうした「老老相続」が頻発すると、資産が高齢者層にとどまりがちになります。住宅取得や子育てにお金のかかる30~40代にお金が回らず、経済活性化につながらないといった弊害も指摘されているのです。
若い世代にお金が回るようにし、かつ相続税逃れを防ぐ制度設計が求められているといえます。資産移転のタイミングや頻度に関係なく、一定の税負担になるような仕組みが生まれれば、世代間格差や所得格差の是正につながる分配機能が働きやすくなるでしょう。
「相続税と贈与税の一体改革はここ数年自民党内の税調(税制調査会)でも議論され続けてきたが、分配政策にこだわりを持つ岸田総理のことだから、大きく前に進むのでは」(自民党関係者)との見方もあります。ちなみに米国やドイツ、フランスなどは相続・贈与にかかる税負担の中立性が確保されています。国際基準に合わせるという意味においても、改革を進める意義はありそうです。
利用されない「相続時精算課税」
贈与税では2003年、暦年課税に加えて相続時精算課税という仕組みができました。これは、60歳以上の父母、祖父母から20歳以上の子や孫に対して財産を贈与した場合に選択することができます。贈与税は2500万円までは非課税で、それを超えた額に一律20%が課されます。「相続時精算」という言葉の通り、贈与した財産は全額相続税の課税対象になるが、すでに支払った贈与税は相続税から控除することができます。最終的な税負担は同じでも、生前贈与の負担が軽いため、早めの資産移転が起こりやすくなるとみられています。
しかしながら相続時精算課税の利用はあまり進んでいないのが現状です。2019年の贈与税の課税件数は、暦年課税約36万件に対して、相続時精算課税は約4万件にとどまっています。相続時精算課税を一度選択してしまうと、現状、節税メリットの大きい暦年課税に戻ることはできないことが、普及しない理由として考えられています。
まとめ
今後、相続税と贈与税の一体化が進んだ場合「大掛かりな改正で時間もかかるだろうが、暦年贈与税制は段階的に縮小され、贈与は相続時精算課税方式に一本化されていく可能性が高い」と、先の自民党関係者は話しています。富裕層や、生前贈与を考えている人たちにとっては、この改革の行方が気になる年になりそうですね。