相続、土地の節税効果大きく 2次相続を踏まえて特例活用
みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。
2022年4月16日付け日本経済新聞土曜版に「二次相続を考えた相続事例」について記事掲載されていましたので、それに関して投稿していきます。
土地を巡る相続税の節税対策が注目を集めています。土地は相続財産に占める比率(都市部の場合は特に。)が高く、効果を大きくしやすいためです。一方で税務当局も土地にまつわる相続税対策に注目しており、指摘を受けやすいとされています。土地を使った節税を考える場合はよく仕組みを理解し、慎重に実行したいものです。
注目されている最高裁判決
税理士や金融機関、不動産業者などが注目する最高裁判決が4月19日にありました。一般的な土地の評価手法を用いて相続税をゼロと申告した相続人に対し、税務当局が「時価を反映していない」として追徴課税したものです。それを不服とした相続人が国を訴えた裁判です。この裁判が注目されるのは、相続時に土地の評価が時価より低くできるルールが広く使われているためです。
相続税を抑えるための有効な手段は相続財産を減らすことです。相続財産を圧縮する方法は大きく2つ。
「被相続人が生きている間に相続人に財産を移す」ものと「相続財産を計算する際の価値(評価額)を減らす」となります。前者の代表が暦年贈与で、課税されない範囲で贈与をしておき、相続する財産を減らすものです。
一方で後者でよく使われるのが土地です。相続開始時に現預金は残高がそのまま課税対象となりますが、土地は評価額を時価よりも大幅に減らせる場合が多いのです。相続財産の資産別保有割合をみると土地、建物の合計が約40%と高い割合を占めています。不動産による節税の効果は、保有資産が自宅に偏る中流層にとって重要な問題といえます。
なぜ土地の評価額が減らせるのでしょうか。法律上、相続で土地は時価評価されます。しかし、実際は時価(公示価格)の80%をメドに税務当局が設定する路線価で価値を算出します。最近では急ピッチな地価の上昇に路線価が追い付かず「地域によっては時価と路線価が大きく異なることがある」と指摘する税理士が多数です。さらに一定の要件を満たす自宅の土地や、賃貸物件用の土地は評価額を大きく下げられる場合があります。
もっとも不動産による節税は、効果が大きいだけに「行き過ぎた節税、租税回避の温床になるとして税務当局が注目しやすい」と岡田俊明税理士は指摘しています。評価減の要件は厳しいので注意が必要となります。
不動産の節税例
代表例が「小規模宅地の評価減の特例」。亡くなった人(被相続人)が住んでいた自宅の土地を配偶者や同居する親族らが相続した場合に利用することができます。相続税を計算する際の土地の評価額を80%減らせるため、都市部の場合、節税効果が数百万~数千万円になることが珍しくないようです。減額できるのは330平方メートルまでで、土地が400平方メートルならば330平方メートルを減額し、残り70平方メートルは通常の方法で評価することになります。
ただ、この特例は残された配偶者らが、相続税を払うために住み慣れた家を手放すのを避けることが目的です。乱用を防ぐため「適用要件が専門家でも間違うほど細かい」と藤曲武美税理士は指摘します。
例えば、特例を受けられる相続人は「配偶者」「同居する親族」「別居する親族」に限られ、さらに別途要件が付くことがあります。同居する親族では被相続人と「同居」し始めた時期が重要で、被相続人が老人ホームに入居後に住み始めた場合は「同居していたとは認められない」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。一方で配偶者は長期間別居していても対象になります。
別居親族についても「被相続人に配偶者や同居する親族がいない」、「相続開始3年以内に自分、配偶者、3親等内の親族の所有する家に住んだことがない」などの要件があります。同居親族、別居親族とも相続開始の翌日から10カ月以内の相続税の申告期限までに、遺産分割協議など被相続人が所有していた土地の取得手続きをする必要もあります。
特例を利用する際には「2次相続も見据えて計画的にしたい」と阿保秋声税理士は助言します。1次相続とは子がいる夫婦の片方が亡くなったとき。もう1人が亡くなり、子だけで相続するのを2次相続と呼んでいます。それぞれでの相続のやり方次第で相続税の負担は大きく変わる場合があります。
長男、次男がいる夫婦で、先に夫が亡くなったケースでみてみよう。長男は相続前から親と同居、次男は別居で持ち家があるとします。夫の遺産は自宅の土地5000万円、自宅の建物1000万円、預貯金3000万円です。
仮に1次相続で配偶者が全てを相続すると、相続税額はゼロにできます。配偶者については、相続財産が1億6000万円までは相続税がかからない配偶者の税額軽減と、小規模宅地の特例が使えるためです。
しかし、配偶者も亡くなる2次相続では配偶者の税額軽減は使うことはできません。さらにこのケースでは配偶者と同居していた長男は小規模宅地の特例を使えますが、次男は対象外となります。そのため、このケースでは、2次相続で320万円の相続税を支払う必要があります。
このケースでは1次相続で相続財産の分け方を工夫すれば、1次と2次を合わせた相続税額を減らすことができます。1次相続では妻と長男が自宅の土地・建物を3000万円ずつ、弟が預貯金3000万円を相続します。すると妻は配偶者の2つの特例により相続税がかかりません。長男も小規模宅地の特例を使うことで、1次相続の相続税は16万円になります。
親の自宅、分け方早期に
2次相続では妻が所有していた土地・建物3000万円を子が相続することになりますが、基礎控除(このケースでは4200万円)の範囲内となるため相続税はかかりません。同じ状況でも、相続税の総額は16万円と、1次相続で配偶者が全て相続するより、相続税が300万以上減らせます。
遺言がない相続で小規模宅地の評価減の特例を使うには、遺産分割協議が必要となります。協議を踏まえ、どの財産を、誰が、どれだけ相続するかを決めないと、被相続人から相続人へ遺産の名義変更ができず、手続きに支障が出るためです。
全ての相続財産について決まらなくても「親の自宅の分け方が決まっていれば、特例が使える」と税理士はいいます。例えば配偶者と同居親族が分割して相続する場合は、共有割合まで決めておくことになります。
分け方が決まっていない場合、相続税は特例を使えない前提で計算し、本来よりも多い税額で申告・納付します。どうしても協議が決着しない場合は「申告期限から3年以内に分割できる見込みである」との文書を税務署に提出します。その上で3年以内に財産の分割ができれば、税務署に相続税の減額を申し出ることで、多めに払った分が還付されます。
遺産分割協議が決着している場合でも、特例を受ける人が家の土地を相続することに他の相続人全員が合意していることを示す文書を提出する必要があります。具体的には遺産分割協議の内容をまとめた協議書を指します。いずれにしても、「親の自宅の分け方は早く決める」ことが肝要といえます。
注目の最高裁の判決は?
2022年4月20日付日本経済新聞によりますと、マンションの遺産相続を巡り、税務署が路線価により評価をした相続税の申告を否定し、独自に鑑定評価して追徴課税した是非が争われた訴訟の上告審判決が19日、最高裁第3小法廷でありました。
相続したマンションを路線価に基づいて算出した相続税評価額が実勢価格より低すぎるとして、再評価し追徴課税した国税当局の処分の妥当性が争われた訴訟の上告審判決で、最高裁は、国税当局の処分を適法とし、相続人側の上告を棄却しました。国税当局の処分を妥当とした一、二審の判断を是認し、相続人側の敗訴が確定しました。
本件は、マンションの購入や借り入れがなければ、相続財産の課税価格は6億円を超えており、相続の発生が予想できる時期にそれらが行われたことも踏まえ、相続税の節税目的があったと認定しました。
「相続税の負担軽減を図るために、あえてマンションを購入するなどしており、税負担の公平に反する」と述べ、「他の納税者との間で見過ごすことのできない不均衡が生じる」として、例外規定の適用を適法と結論づけました。これは、裁判官5人全員一致の結論だということです。
今後の展望は?
相続税の基準となる「路線価」は、基本的に公示地価や市場価格(時価)より低くなっています。特に、戸数が多いため各区分所有建物に付随する土地の保有持分が少ないタワーマンションなどは、「時価」と「路線価」の乖離が著しくなっています。
そこで、現預金で相続を迎えるより、将来的に換価しやすい(値崩れしにくい)都市部の高層マンションに代えて相続を迎える方が相続税評価額を減縮できると言われています。
さらに、借入金を活用してマンションを購入すれば、相続時に残っていたローンの残債務を相続税の課税対象財産から控除できるため、何の対策も取らずに現預金のまま相続を迎えるより、相続税を大幅に抑えることができます。銀行融資を絡めた不動産の購入・建設の方策は、相続税策の常套手段でもあります。
そんな中での今回の最高裁判決は、フルローン(頭金を入れずに物件価格の全額を金融機関からの借入れでまかなうこと)の利用など、現有資産の有効活用の域を出て、相続税額の大幅な圧縮を主目的とした過度な節税策には、警鐘を鳴らす司法判断といえるでしょう。
しかし、どこまでが適正な相続対策で、どこからが「著しく不適当」なケースとなるかは、その適用基準が曖昧であるので、富裕層が大幅な相続税額の権限を狙ったアクションには、大きなリスクを伴うということを認識せざるをえない判決内容でした。