年金受給の開始時期、「後悔の有無」を重視!

みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。

2022年5月13日付け日本経済新聞に、「年金受給の開始時期」についてのひとつの考え方(経済コラムニスト大江英樹氏)が掲載されていましたので、それに関して投稿していきます。

2022年4月の年金制度改正で年金受給開始が75歳まで繰り下げられるようになりました。
公的年金の支給開始時期は、原則65歳であることはよく知られているところです。ただ、これは支給する側からの話であって、受給、すなわち受け取る側からすると必ずしも65歳で受け取り始めなければならないわけではなく、60歳から70歳までの間のいつでも好きな時に受け取り始めることが可能となっていました。

年金は本来の支給開始年齢である65歳を基準として、1カ月繰り下げる毎に0.7%増額され、逆に1カ月繰り上げると0.4%減額(今回の制度改正で0.5%⇒0.4%に)となります。

したがって、70歳まで5年繰り下げると42%が増額され、それが生涯続くことになります。さらに制度改正で、この4月からはこの年齢幅が75歳までに拡大されたことで、もし75歳まで繰り下げると以後は84%増となります。逆に60歳まで繰り上げて受給を始めると24%減額となり、これもその減額された数字が生涯続くことになります。

何歳から受け取るのがお得?

大江英樹氏はメディアからよく取材を受けるそうですが、必ず出てくる質問のひとつが「年金は何歳から受け取るのが一番得ですか?」、あるいは「繰り下げしたら何歳で元が取れますか?」というものだそうです。

これは簡単に計算することができます。例えば65歳で受け取り始める場合と70歳で受け取り始める場合を考えてみます。

65歳から受け取り始める年金額を仮に100万円とします。これを70歳まで繰り下げると42%増額されるので、70歳から受け取り始める年金額は142万円となります。そこでもらえなかった500万円(100万円×5年)を取り戻すためには毎年増額される42万円で割ればいいので、その数字は11.9年となります。

0.9年は月数に直すと11カ月ですので70歳から11年と11カ月経過して以降、つまり82歳で逆転し、以降は長生きすればするほど受け取る差額は広がっていくことになります。

このような考え方で、65歳受給開始と75歳受給開始を比べてみると75歳から11年11カ月になるので、87歳以降で元が取れるということになります。

現在の男性の平均寿命が81.6歳、女性の平均寿命は87.7歳ですので、男性の場合は70歳受給開始、女性の場合は75歳受給開始にすると、平均寿命まで生きていれば元が取れるということになります。このように”元が取れる年齢”というのは機械的に計算すれば簡単に出すことができます。

こうして算出された”元が取れる年齢”は、あくまでも「額面上の金額」で算出したもので、実際の「手取り額」から算出したものでない点は注意が必要です。(一般的に受取金額が多くなると税金など控除される金額が多くなります!)

しかしながら、”元を取れる金額”を機械的に計算してもあまり意味は無いと大江氏は指摘しています。それは以下のような理由からです。

自分が82歳までに死ぬことがわかっているのであれば、繰り下げしない方が良いのですが、そんなことは誰にもわからないからだといいます。また、老後何歳まで生きられるかということを考えた場合、平均寿命で見るよりも寿命中位数で考えたほうが良いだろうと指摘しています。

寿命中位数というのは同じ年に生まれた人のうち半数がまだ生存している年齢のことを言います。これで見ると現在、男性の寿命中位数は84.6歳、女性は90.6歳となっているので平均寿命よりは3歳ぐらい高くなります。

ただ、平均寿命にせよ寿命中位数にせよ、あくまでも一般論であって個人によってまったく状況は異なります。したがってこうした平均や一般的なデータで判断してもあまり意味は無いことになります。

公的年金は貯蓄ではなく保険

大江英樹氏の講演などに何度か参加しましたが、大江氏は「公的年金の考え方」について「公的年金の本質は「保険」である」と協調しています。

実のところ、公的年金を「貯蓄」だと思っている人は多いようです。確かに貯蓄なら、預けたお金がどれぐらい増えて戻ってくるかが重要であり、損得を考えることは重要になります。

しかしながら保険においては損得を考えることはあまり意味がないと大江氏は指摘しています。

保険というのは損得ではなく将来起こり得る危険や不安に対して経済的な安心感を得るためのものです。そういう意味では「公的年金」という保険には3つの保障機能が備わっているといえます。

まず、①長生きして働けなくなっても死ぬまで生活をまかなうためのお金が支給される老齢年金。次に、②病気やけがで障がいを負ってしまった場合、生涯にわたってお金が支給される障害年金、そして、③生命保険同様、本人が亡くなった場合に遺族に対して支給される遺族年金、公的年金はこの3つの機能を備え持っているといえます。

健康寿命からの考察

一方で、次のような考え方をする人もいることでしょう。「単に寿命だけ考えても仕方ない。平均寿命よりももっと大切なのは健康寿命だ。単に長生きするからと言って年金の受け取りを先延ばししてしまったら、いざ受け取るという時に寝たきりになってしまっているかもしれない。だからやっぱり早くもらって元気なうちに使ってしまった方がよい」と。

たしかにこれには一理あります。しかし、これも何歳まで健康でいられるかということは、誰もわかりません。

そもそも健康寿命とは何なのでしょう。「健康寿命」とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをさし、2021年12月に公表されたデータによると、男性は72.68歳、女性は75.38歳となっています。

平均寿命との差を考えると健康ではない期間が10年ぐらいあるということになりますから、元気な内に年金をもらって使ってしまった方が良いという考え方もあり得ることです。

最近の週刊誌の終活特集などでは、このような論調をよく目にします。また、それとともに、繰り下げすることで年金額が増えて、控除額が多くなり、相対的に手取り額が減少するという論調もよく目にするところです。

ただ、そもそも健康寿命とは一体どうやって算出されるのかも見ておく必要があります。これは3年ごとに算出される国民生活基礎調査の中のアンケートがもとになっていて、「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という質問に対して、「ある」という回答を「不健康」とし、これを主指標としています。

60歳から70歳ぐらいになると高血圧や糖尿といった何らかの病気を抱えている人は多いでしょうし、こういう聞き方をすれば多くの人は「影響がある」と答えるだろうと考えられます。

つまり、「健康寿命」は、アンケートという極めて主観的なデータで導き出されたものになります。したがって、誰もが健康寿命以降は寝たきりのような状態になるというわけではないということも容易に想像できます。

死んだら損も得も関係なし

では年金を損得で考えるべきではないとすれば、いつから受給を始めるべきかを一体何で判断すれば良いのでしょうか。

それに対して大江氏は「後悔の有無」であると話しています。年金は保険なのだから働ける内は働いてできるだけ受給は遅らせた方が良いと大江氏は考えています。

たとえば、70歳まで繰り下げているうちに、もし69歳で死んでしまったらどうでしょうか。年金を1円ももらっていないのだから確かに損だと思います。しかし、本人が死んでしまっているのですから損も得も関係無いということにもなります。もし後悔するとしたら、それはあの世に行ってからということになります。

一方、早くもらった方が得だと思って60歳から受け取り始めた場合、早く死ねば得になるのはもちろんですが、これも前述のように死んでしまっているのだから損も得も関係無いことになります。ところがもし長生きをしたらどうなるでしょうか。

令和4年(2022年)度の年金額改定によれば、専業主婦家庭で世帯主が厚生年金に40年加入していた場合(厚労省のモデルケース)の年金受給額は月額21万9593円(平均標準報酬43.9万円=賞与含む月額換算=で40年就業した場合に受け取り始める年金=老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金、満額=の給付水準)となります。

これをベースに計算すると、60歳から受給開始した場合90歳までの受給総額は6008万円となります。これが65歳からだと6588万円、70歳からだと7484万円になりますので、60歳から受け取り始めるのと比べて約1200万円以上もの差となります。つまり長生きすればするほど後悔が大きくなりかねない状況になります。

もちろん、これらの数字だけを見て、大江氏は「年金の繰り下げ」を推奨するわけではないとしています。家族構成やその状況、自分の健康状態や何歳迄働くのかなどによって受け取り方の選択肢は変わってくるのは当然として、これが絶対正しいという受け取り方はないと主張しています。

ただ、冒頭でも述べているとおり、年金の本質は保険であり、何歳まで長生きしても後悔のないように考えておくことは重要だろうとしています。

まとめ

私自身、「公的年金は貯蓄でなく保険」ということは、よく理解しているつもりなのですが、人間のサガといいますか、無意識のうちに、どうしても損得勘定をしてしまいます(笑)。

還暦を過ぎ、確かに若いころに比べて、食べる量が減ったとしみじみと感じますし、トイレも近くなったのを自覚します。旅行にいくのも、自由に動けて、食べるのに支障のないうちにと考えていますが、年金の支給開始時期は迷いますね~。

私の場合、亡妻の遺族厚生年金受給を申請したため、私の厚生年金は65歳受給が既に決定していますが、国民年金(基礎年金)はいつから受取りをしましょうかね。いずれにしましても、ボール(選択権)はこちらにあるので、じっくりと考えていきたいところです。

「繰り下げ」は、まさにこちらにボール(選択権)がある感じがしますよね。繰り下げの最中でも受給したくなったら翌月から受給すれば良いですし、まとまったお金が必要ならば、65歳受給として申請すれば、65歳から未受給だったお金が手に入るわけですから。

個人個人の状況に大きく影響されるのでしょうが、年金の受給年齢は「後悔のない」ように選択したいものです。(基礎年金部分と厚生年金部分は、それぞれ支給時期をチョイスできますので、その組み合わせについても後悔なきようお願いします!)

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