働く高齢者が増えるのは「公的年金の不足感」から?
みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。
「敬老の日」にあたって
9月16日は「敬老の日」です。敬老の日に伝えられたニュースは日本の高齢者数や高齢者の就業者数などについてでした。日本では高齢者福祉法で65歳以上の人を高齢者と定義しています。65歳~74歳は前期高齢者、75歳以上を後期高齢者とされています。
しかし、最近の日本では個人差はあるものの、この高齢者の定義が現状に合わない状況が生じています。高齢者、特に前期高齢者の人々は、まだまだ若く活動的な人が多く違和感を感じるところです。このようなことから、75歳以上を高齢者と定義しようという動きもあります。
働く高齢者は最多の914万人、昨年4人に1人が就業
令和6年9月16日付けの日本経済新聞によりますと、総務省は9月16日の「敬老の日」にあわせ、65歳以上の高齢者に関する統計を公表しました。
公表された統計では、2023年の65歳以上の就業者数は2022年に比べて2万人増の914万人でした。20年連続で増加し、過去最多を更新しています。高齢者の就業率は25.2%で、65~69歳に限れば52%と2人に1人が働いていることになります。
増加の背景には、定年を延長する企業が増加し高齢者が働く環境が整ってきたことで、高齢者の働き手が人手不足を補う形となっているようです。年齢別の就業率は60~64歳は74%、70~74歳は34%、後期高齢者の75歳以上は11.4%といずれも上昇し、過去最高となっています。2023年の就業者数のなかの働く高齢者の割合は13.5%で、就業者の7人に1人を高齢者が占めています。
65歳以上の就業者のうち、役員を除く雇用者を雇用形態別にみると、非正規の職員・従業員が76.8%と3/4以上を占めています。産業別では「卸売業、小売業」が132万人と最も多く、「医療、福祉」が107万人、「サービス業」が104万人と続いています。このうち「医療、福祉」に従事する高齢者の数は大幅に増えて、2013年からの10年間でおよそ2.4倍となっています。
また、9月15日時点の人口推計によると、65歳以上の高齢者人口は前年比2万人増の3625万人と過去最多となり、総人口に占める割合は前年から0.2ポイント上昇の29.3%で過去最高を記録しました。65歳以上人口の割合は日本が世界で突出している状況で、人口10万人以上の200カ国・地域で日本が首位になっています。
高齢者の就業率が過去最高となっていることについては、
①高齢者雇用安定法の改正により、2021年4月から企業には65歳までの雇用確保の義務に加え、70歳までの就業確保の努力義務が追加されたこと
②年金制度改正法等の施行により、老齢年金の繰下げの年齢について、上限が70歳から75歳に引き上げられたこと
などが、より長く働くことの追い風になっているものと考えられます。
「公的年金の不足感」への対処法は?
働く高齢者が増え続けている要因には、「やりがい」「ボケ防止」「社会とのつながりを持つため」などがありますが、なかでも一番多い理由として「経済上の理由」が挙げられています。およそ71.8%の人が、「自分と家族の生活を維持するため」「生活水準を上げるため」「その他の経済上の理由」などの理由を挙げています。
その背景には公的年金だけでは「今後の生活が心もとない」という思いがあるのではないでしょうか。
日本経済新聞電子版2024年9月6日付の「人生100年こわくない・マネー賢者を目指そう」では、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生さんの「公的年金「不足感」への対処法」と題して以下の記事を掲載しています。
老後の心配「公的年金では足りないのではないか」
私たちの老後で心配なのは、現在予想されている公的年金の支給額では足りないのではないかという不安です。厚生労働省の資料では、厚生年金支給額の平均値は男性16.3万円、女性10.5万円(2022年度)。世帯で夫と妻がこの金額をそれぞれもらうと26.8万円になります。ゆとりある老後の生活費は毎月34万円程度必要という答えが多いので、月約7万円の収入の上積みが必要になる計算です。
この不足を賄う手段としては
①働き続ける
②金融所得を得る
③事業所得を得る
という3つになると熊野さんは言っています。そうでなければ貯蓄を取り崩すか、家族か公的な援助を受けることになり、現実的には難しい選択といえるとしています。
多くの人が選択しているのは①の「働き続ける」。近年は本人の希望があれば継続雇用ができる体制になってきています。それを裏付けるように総務省「家計調査」(総世帯)を調べると、世帯主が65歳以上の世帯で勤労している割合は、2003年15.1%→2013年15.0%→2018年22.5%→2023年25.0%と上昇しています。
ただ、このデータはもう一方で働いていない世帯が多いことも示していて、健康状態や意欲の問題もあって働けない人は相当に多いのだろうとしています。その根拠として世帯主が70歳以上になると、勤労者の割合は14.2%へと低下する(2023年)ことを挙げています。
働けなくなったとき
私たちが老後に備え収入源を考えるときには、まず働けるうちはなるべく働き続けるしかないのですが、もしも働けなくなった場合は別に収入源を求めていくしかありません。十分に貯蓄を積み上げるという方法もあるのでしょうが、貯蓄が少なくなると強い不安に襲われることから、なるべく高利回りで運用収入を稼ぎたいと思うでしょう。
よく聞くのは運用資産の利回りを4%にして同時に資産の4%分を取り崩して生活するという説で、これは早期リタイアで暮らすFIRE(ファイヤー)という流儀だということです。しかしこの理論は米国ならば成り立つとしても、日本では4%の利回りで資産残高を増やし続けることは難しいといいます。なぜなら。日本の預金金利はせいぜい0.1〜0.5%、長期国債で約1%、株式の平均配当利回りは約2%といったところだからです。
2人以上世帯で60歳代の金融資産は2447万円(2024年3月末、家計調査)。このうち預金残高は1516万円。有価証券が455万円となっています。仮に預金利回りが0.5%で、有価証券の配当利回りが2%とすると、金融所得は年間16.7万円(毎月1.4万円)に過ぎません。ポートフォリオで有価証券を2倍(910万円)にしてその分預金残高を減らすとすると、金融収入は年間23.5万円(毎月2.0万円)に増えますが、それでも十分な金融所得は得られません。
そこで4%のインカムゲインを得るために米国の長期国債に有価証券分(910万円)を回す方法で再検討してみました。すると金融所得を年間41.7万円(毎月3.5万円)に増やすことはできました。しかし、このシミュレーションでは税金を加味していないほか、米国債も米連邦準備理事会(FRB)の利下げが9月に始まろうとしていて、長期で4%という利回りは稼げなくなってきています。金融所得をインカムゲインとして得ることも、徐々に難しくなっているのが実情といえます。
日銀は金利正常化の方針を当面続けていくと予想されますが、預金の利回りはそれほど上がず、長期金利も1%前後からは上昇するものの1.20〜1.50%くらいにとどまります。
これは政府債務残高が膨らみ、あまり長期金利が上がると債務発散のリスクがあるため、日銀自身も先々の政策金利を1%以上に上げるのは難しいと思われるからだといいます。中長期的に考えても短期・長期の金利水準は物価上昇率を上回ることができないとみられていて、日本の低金利は10〜20年間は続くと熊野さんは考えているということです。
となると預金や円債で運用する限り、インフレによって実質的価値が減価していく圧力を否応なく受けてしまうという結論に至り、これを回避するためにインカムゲインを十分得ようとするならば、ドルなどの外貨運用へとシフトするか、円であっても事業所得を追求するしかないという見解になると熊野さんはいいます。
不動産所得を選択肢に
第3の収入源としての事業所得には起業や副業など自分でビジネスをすることが含まれますが、これは自分自身で就労するのと同じこととなり肉体的負担は大きくなります。
そこで熊野さんは不動産所得を考えています。多くの場合、管理は不動産会社に任せて自分はオーナーとして所得を受け取ることになります。不動産で稼ぐためにはそれなりの資本と経験が必要になりますが、金融所得よりも大きな規模で稼げるところが利点になります。不動産所得のある人は2022年に105万人おり(国税庁調べ)、1人平均542万円を得ている状況です。
「自分には資本力がない」と思う人もいるでしょうが、意外なところに稼働資産はあるといい、熊野さんの個人的な経験として、中高生のときに暮らしていた持ち家は熊野さんの両親が貸家にして毎月の家賃収入を稼ぐ術にしているそうです。代わりに両親は祖父母の家に住んでいます。
相続で譲り受けた家などは貸家にしてそこから定期収入を得ることができるとしています。総務省によれば2023年10月の空き家は900万戸にも上り、総住宅数6502万戸のうち約14%が空き家だといいます。これを売却したり貸家にしたりすれば、家計の収入増に寄与するはずだとしています。
熊野さんが不動産投資に注目する理由はレバレッジの効果が見込めることにあるといいます。
借り入れをして中古住宅やワンルームマンションに投資し家賃収入を得るということには、日銀がマイナス金利を解除し、7月には追加利上げをしたので、借り入れをして投資することは不利に思えるに違いないとしています。しかし今後、日銀がどの程度追加利上げができるかというと、実質金利をプラスに持っていくことすら難しいと考えられることから、不動産投資の利回りが5%であれば、借り入れコストが上昇していったとしても利ざやがマイナスになることはないとしています。
ただ熊野さんは自分自身でも直感的にこの考えを実現するハードルは高いと感じていて、まず借入金の増加への心理的ハードルが高い点を挙げていて、心理的安全を求める人には向かないとしています。
また不動産投資には独特のノウハウが必要とし、「投資利回り5%」であっても、空室のリスクや修繕コスト、購入時の諸費用がかかると実質利回りは表面利回りよりも低下することになります。物件の質を吟味しないと家賃を将来的に引き上げられなくなるとし、管理を委託する不動産会社には次々と修繕案を提示してくるところもあり、言いなりになると採算は悪化することになります。
発想を変えるとインフレ時代に減価するものと言えば借入金でり、将来、家賃相場が上がるようになれば、不動産業の採算性は改善していきます。そうした世界になればレバレッジをかけた事業のメリットは高まることになります。
若い頃から戦略的に考える
熊野さんは、年金不足の準備はなるべく若い頃から考えておく方がよいとし、その理由として、人生の後半戦では今までに蓄積したストックを所得に変えて不足を補うことになるからだとしています。
蓄積したものには
①人的資本
②金融資本
③事業資本
の3つがあり、スキルがある人は副業・兼業をしやすいとし、60歳代以降で給与を切り下げられにくくするには自分の特定スキルを駆使して稼げる場を広げるしかないとしています。
人的資本の中にはスキル以外に「関係資本」というものがあり、これは人脈など人的ネットワークと言えばわかりやすいかもしれません。会社人間の関係資本は一般的に小さいので、なるべく社外に自分が困ったときに助けてもらえる人間関係を構築しておくことにより、自分が60歳以上になったとき、新しい所得を得る機会へと発展していく可能性があります。こうした無形資産を若い時から戦略的に養っていく必要があると熊野さんは説いています。
半面、②金融資本からのリターンは少ないとしています。これは日本の政府債務が大きく、日銀が昔のように政策金利を上げられないからとし、国民は財政悪化のしっぺ返しを老後の金利収入減という形で受けていることから、①や③の方法で取り返すしかないとしています
③の事業資本とは、不動産事業のように自力でビジネスを切り盛りして事業所得を増やしていくことであり、副業・兼業を横展開してもよいのです。若い頃から不動産投資をしている人には、自分で法人を設立し、その資産・負債の両方を増やしている人がいます。金融資産だけで数億円を得ることは極めて困難ということですが、事業拡大を成功させると可能になるといいます。
シニアはどうするのが正解か?
熊野さんの記事は以上ですが、では、すでに高齢者になっていたり、高齢者仲間入り直前のシニアはどうしたらよいのでしょうか?
記事後半の「若いころから戦略的に考える」というのは、シニアには無理ですので、他の方法ということになります。
結局は、①働き続ける ②金融所得を得る ③事業所得を得る の手法を考えていくことになりますし、支出を見直すということも必要になってくるでしょう。
いずれにしても「公的年金に頼る」だけでは、老後の生活は成り立たないわけですので、①~③の手法を併用しながら、それぞれの環境に合わせて考えていくしかないのでしょうね。
公的年金の不足感からの「行き過ぎた節約」には要注意!
働く高齢者の割合が年々高まっているという報道から「公的年金の不足感への対処法」を取り上げてみましたが、人それぞれ環境や要件が違い、一律の答えは見えてこないのが実際のところでしょうか。
ただ、「公的年金の不足感」という不安から、やみくもに働き続けたり、無理した節約を続けるというのは考え物ではないでしょうか。自分の寿命がわかっているのであれば、計画的に準備して寿命に合わせて使っていくことも出来ますが、人の寿命は誰にも分かりませんので多くの資産を残そうと考えてしまいます。
「家計調査報告(貯蓄・負債編/二人以上の世帯)」(総務省統計局)では、75歳以上が保有する純貯蓄高が一番多い年齢層であることが示され、「人生最期の時が一番お金持ち」という実態が明らかになっています。
シニア層にとっては収支のバランスは重視すべきでなるべく資産を減らしたくないというのが本音ですが、「思い出づくり」の時間を削ってまでの労働や過度な節約はやめた方が良いのではないかと考えています。
なぜならば、人生の最晩年に振り返った時、どれだけの物質的な財産を持っていたかよりも、どれだけ豊かな経験と思い出を積み重ねてきたかが、人生の満足度を大きく左右するのではないかと私は考えているからです。お金を貯めて老後に備えることも大切ですが、「思い出づくり」の時間を削ってまでの労働や過度な節約といった行き過ぎた行動は考え直した方が良いかもしれません。
高齢者の仲間入り直前の64歳までと65歳~74歳までの前期高齢者のアクティブシニア層には、「思い出づくりの時期(アクティブシニアの時期)を逃さない」という考え方が大切であり、それこそが「幸せな生き方を実践する」ということだと思うのです。