事業承継がやりやすくなる?「経営者保証求めません」で!
みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。
令和5年5月8日付日本経済新聞電子版「「経営者保証求めません」 地銀、相次ぐ融資慣行見直し」と題して、「融資先への経営者保証」に関する最近の動向について掲載されていました。
「経営者保証」とは、中小企業等が債務不履行に陥った場合、経営者個人が私財を差し出して借金を返済する融資慣行ですが、金融機関が融資先の企業に経営者保証を求めない動きが広がっていくことにより、事業承継の障壁が少し低くなるのではないかと思います。
まず、「「経営者保証求めません」 地銀、相次ぐ融資慣行見直し」記事の内容は以下のとおりです。
地方銀行で広がる動きとは?
地方銀行において融資先の企業に経営者保証を求めない動きが広がっています。八十二銀行や山陰合同銀行、福岡銀行など少なくとも10行以上が原則、経営者保証を求めないことにしました。
万が一の場合、経営者個人が私財を差し出して借金を返済する経営者保証は、心理的負担の重さから起業や経営への弊害があります。こうした融資慣行の見直しは、スタートアップの育成などにつながる可能性があります。
2023年4月以降に、北洋、八十二、紀陽、山陰合同、西京、阿波、福岡、十八親和、熊本、豊和、琉球の各銀行などが融資の際に原則、経営者保証を求めないことを表明しました。
山陰合同銀行は「経営者保証が地域の社長のチャレンジを阻害している面があり、解消することは地域のためになる」と話しています。
八十二銀行は、「前例踏襲で経営者保証を求める例もまれにある。経営者保証に関する取り組み方針を行内で改めて徹底する」といいます。
「経営者保証を付けることは当たり前」(ある地銀の営業店行員)の慣行が続いてきましたが、保証を頼らず企業の事業内容や成長性を評価して融資することを原則にします。
その中でも、より踏み込んだのは北国銀行で、昨秋に保証協会などを介さず銀行が直接行う「プロパー融資」で経営者保証を廃止しました。
北国銀行は2022年4〜9月の新規融資に占める無保証融資割合は87%と全国の地銀で2位の高水準ですが、創業向け融資などで一部経営者保証を必要としていた基準も廃止しました。
経営者保証の功罪は?
経営者保証は、経営の規律づけに寄与する一方で、事業に失敗すると経営者は自宅不動産や私財を失い生活が厳しくなります。思い切った事業転換や再挑戦の妨げとなっているほか、起業をためらう一因ともされています。
先代から経営者保証を引き継ぐ心理的ハードルから事業承継を拒むなど企業の新陳代謝が進まない原因にもなっています。
経営者保証を巡っては、2014年2月からの民間による自主ガイドラインの適用で、2015年度は12%だった民間金融機関による新規融資に占める無保証融資割合(件数ベース)は、2022年4〜9月には33%と改善傾向にあります。ただ、いまだ約7割は経営者保証付き融資で、金融庁は改善の余地があるとみています。
金融庁の動きは?
金融庁は2023年4月から、経営者保証を求める場合は保証契約の必要性などを具体的に説明することを金融機関に義務付けました。また、金融庁に説明件数を報告することも求めています。経営者保証を求める手続きを厳格化することで、安易に経営者保証をつける融資を抑制するのが狙いです。経営者保証に関する取り組み方針の公表も金融機関に要請しています。
2023年4月に取り組み方針を公表した広島銀行も原則、経営者保証を求めない地銀の一つです。事業の内容や成長可能性をしっかりと評価した融資を進める狙いで、2022年3月からクレジットポリシー(融資基本方針)を「適切に保証人徴求を行わなければならない」から「原則、保証人を求めないものとする」に見直ししました。それにより2021年4〜9月に29%だった無保証融資割合は2022年4〜9月には61%まで上昇し、全地銀平均の40%を上回り、上昇率は全地銀で最も高くなっています。
広島銀行の行内手続きについても「経営者保証をとらない場合に本部に稟議(りんぎ)をあげる」から、現場の支店長が判断した上で「経営者保証をとる場合に本部に稟議(りんぎ)をあげる」ように変更しました。こうした変更により、直近の2022年10月〜2023年3月の無保証融資割合は62%となっています。
地銀の相次ぐ表明で金融庁幹部は「地銀全体の無保証融資割合は大きく上昇するのでは」と期待しています。ただ、2022年4〜9月に経営者保証付き融資が85%を占める地銀もあります。公表済みの地銀の取り組み方針の表現ぶりにも温度差はあります。
経営者保証に依存した融資慣行から脱却するには、「(銀行の)経営トップのスタンスが重要」(広島銀行)といいます。社長個人の私的な飲食費を会社の経費にしているなど法人と個人が分離されていない中小企業に改善を促すことも重要になってきます。支店の行員が企業の持つ成長性などを正しく評価し、経営者保証に頼らなくても融資ができるように与信能力を高める必要もあります。
政府が2022年末に発表した「経営者保証改革プログラム」とは?
このような金融機関の「経営者保証」見直しの動きは、経済産業省、金融庁、財務省は2022年12月下旬に発表した創業支援のための「経営者保証改革プログラム」を根拠としています。
このプログラムには、経営者個人が会社の連帯保証人になる「経営者保証」を見直すことが示されていました。
政府は2023年春から経営者保証がなくても融資を実行できるよう金融機関などへの指導を強めています。事業再生やスタートアップ企業の創業を阻む側面もあった、日本の中小企業向け融資が変わってきつつあります。
「個人保証」とも呼ばれる経営者保証は銀行への返済が滞った際に、経営者本人が会社に代わって返済する制度ですが、経営の規律付けに寄与する一方で、経営者が破産を恐れ、思い切った事業再生や、他者への事業承継を妨げているとの指摘もありました。
経営者保証がついた中小企業向け融資は現在、全体の7割程度とみられていますが、最後は経営者個人の責任を追及する慣行は「経営者個人の生活まで破壊しかねず非人道的」ともいわれてきました。
2022年12月下旬に発表された「経営者保証改革プログラム」の中で、経営者保証に依存しない融資への移行を加速するため、①スタートアップ・創業 ②民間融資 ③信用保証付き融資④ 中小企業のガバナンス――の4分野で重点チェックする方針を示しています。
金融機関には、個人保証契約をする場合にその必要性や解除の条件を説明させながら、「無保証融資件数」と「有保証融資で適切な説明を行い、記録した件数」の合計で100%を目指していきます。金融機関側には「説明責任」を課し、安易に個人保証に頼らないようクギを刺した形となっています。
円滑な事業承継や事業再生につながるか?
こうした改革により政府の目論見どおりに、円滑な事業承継や思い切った事業再生につながるか注目していきたいと思います。
親世代から子世代への事業承継に関しても、子世代が破産を恐れるあまり事業承継が進まなかったという事案もありそうな気がします。こうした融資慣行の見直しなどにより、中小企業の円滑な事業承継に結び付くことを期待します。