デジタル庁創設で何が変わる?
こんにちは、ディアパートナー行政書士・FP事務所 代表の瀧澤です。
今回は、今月(2021年9月)本格的に稼働を開始する「デジタル庁」について考察してみます。(出展:日本FP協会「エコノミストの視点」)
デジタル庁は、「デジタル社会の形成に関する施策を迅速かつ重点的に推進する新たな司令塔」として、わが国の行政サービスのデジタル化を牽引することが期待されています。
デジタル庁創設の背景
政府がデジタル庁を創設した背景には、新型コロナ禍でわが国のデジタル化の深刻な遅れが露呈したことがあります。
わが国政府は、2000年代初めより20年余り電子政府やデジタルガバメントに取り組んできてはいたものの、歴代政権において行政のデジタル化は必ずしも優先課題とされておらず、行政の縦割り構造や旧態依然とした規制の存在、デジタル人材の不足などもあり、取り組みは諸外国に比べて大幅に遅れていました。
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために非対面・非接触の生活様式が求められたものの、官民のサービスの多くがいまだに「書面・対面・押印」を前提とするなど、生活や仕事の様々な場面でデジタル化が進んでおらず、経済・社会に大きな混乱をもたらしました。
例えば、1人10万円の特別定額給付金の申請手続きにマイナンバーカードを使ったオンライン申請が導入されてはいたものの、多くの自治体で手作業による確認・突合が必要となり、結果として郵送による申請のほうが給付金が早く振り込まれるという事態になったことは記憶に新しいところです。
政府CIOポータル(内閣情報通信政策監が推進する政策に関するウェブサイト)によりますと、行政手続き62,253種類のうちオンライン化されているものは8,419件(13.5%)、オンラインで完結できるものは6,003件(9.6%)にとどまっている状況です(2020年3月末時点)。
また、オンラインサービスでの認証に使われるマイナンバーカードも普及率は31.8%(2021年6月1日時点)と低調で、利用できる場面やサービスもいまだに限定されています。
こうした事態を重く見た菅政権は発足と同時に、行政のデジタル化に本腰を入れて取り組むことを表明しました。そして、2021年5月にデジタル庁の創設などを含む「デジタル改革関連法」が可決・成立したところです。
デジタル庁の概要と主要な業務
これまでも、電子政府やデジタルガバメントを推進するために、政府CIO(内閣情報通信政策監)や内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室などが設置されてきていたものの、各省庁に対する命令や是正を勧告したり、予算を配分・執行するなどの権限を持つものではありませんでした。
このため、国の各省庁や地方自治体がバラバラにシステム整備やオンライン化に取り組み、投資の重複やデータ・システム間の連携ができない、目標通りに計画が進まないなどの問題が生じていました。それに加えて、デジタル推進に関わる専門的な知識を有する人材が不足していることも、デジタル化の遅れにつながった要因です。
こうした反省点を踏まえ、デジタル庁は首相の直轄とし、各省庁のITに関連する予算の一括計上や各省庁に対する強力な総合調整権限(勧告権等)など、政府のみならず社会全体のデジタル化を牽引する司令塔としての機能が付与されています。
加えて、デジタル化を推進するための施策や重点計画を策定・審議するために、すべての閣僚が参画する「デジタル社会推進会議」や、有識者によって構成される「デジタル社会推進検討会」が設置されることになっています。デジタル庁発足時の職員約600名のうち、民間のIT人材を3割相当の200名程度採用してスタートしているとのことです。
民間のIT人材採用はエンジニアが中心で、大部分が非常勤の待遇となっているようで、兼業・副業やテレワークも認められるということです。政府は2023年4月の入省組を対象に「デジタル」区分の総合職試験も新設するということです。行政でも自前のIT人材の育成が必須になってきています。
デジタル庁の主要な業務は、
①国の情報システムの基本方針の策定や予算の計上、事業の統括・監理
②地方自治体の情報システムの統一・標準化に関する企画と総合調整
③マイナンバー制度全般の企画立案
④民間・準公共部門のデジタル化の支援
⑤データ利活用促進のためのID制度や認証制度、基本データ(ベース・レジストリ)の整備等の推進
⑥サイバーセキュリティの専門チームの設置など安全対策の強化
⑦デジタル人材を確保するための環境整備 などとなっています。
デジタル庁のもと官民のデジタル変革(DX)を進め、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」、「デジタルを意識しないデジタル社会」の実現を目指していくことになります。
デジタル庁への期待と課題
デジタル改革関連法の成立ならびにデジタル庁の本格稼働により、わが国の行政デジタル化の様々な課題の解消が期待されています。
その中でも、私たちの生活に関わる事項として、
①マイナンバー制度の有効活用
②国や地方自治体のシステムの共通化・標準化 の2点が挙げられます。
まず第一に、全国民へのマイナンバーカードの普及(2022年度末を目標)、ならびにマイナンバー制度を有効活用するための各種施策が推進されることによって、利便性の向上が期待されています。
例えば、マイナンバーカードの健康保険証としての利用(2022年度末)や運転免許証との一体化(2024年度末)、在留カードとの一体化(2025年度末)、マイナンバー付き公金受取口座の登録・利用(2022年度中)、各種免許・国家資格等との連携(2024年度中)などが実現する見込みとなっています。災害対応でもマイナンバーカードの活用が意識されています。
また、2022年度中には全ての地方自治体において、利便性の高い行政手続きについて、マイナポータルからマイナンバーカードを使ってオンラインでの手続きを可能にする目標が掲げられているところです。
そして第二に、国の情報システムについて、共通的な基盤・機能を提供するガバメントクラウドを整備し、2021年度に運用を開始するとともに、地方自治体の基幹業務システムに関してもガバメントクラウド上に移行する計画(2025年度)となっています。
国や地方自治体のシステムの標準化や共通化が進められることにより、システム間の円滑な連携や共通サービスの開発・導入などが可能になってきます。国の各省庁や地方自治体は、自らシステムやサービスを開発するコストや人員などの負担が軽減されるほか、オンライン化による事務の効率化や省力化を図ることができ、人手を必要とする業務に人員を手厚く配置できるようになることが期待されています。
また、住民にとっては全国どこでも同じように行政サービスを利用することが可能になります。国と地方、あるいは地方自治体間のシステムやデータの連携により、多様なサービスのワンストップ化も展望できるでしょう。
その一方で、課題も指摘されています。
1)第一に、政府の各省庁や地方自治体など現場の職員、国民などの理解の促進とデジタルリテラシーの養成があります。行政のデジタル化を進めても、実際の利用者となる現場職員や国民がその意義を理解するとともに、容易に使うことができるものでなければ、画に描いた餅になりかねません。
2)第二に、透明性と説明責任の確保です。これまでの電子政府やデジタルガバメントでは、計画の進捗状況や投資対効果を適切に評価し、国民に対し詳細にに公表する姿勢に欠けていた感があります。行政デジタル化は、定期的な更新が必要とされ、継続的なモニタリングと評価により改善につなげていくことが不可欠であると専門家は指摘しています。。
また、国の重要なシステムに関する予算をデジタル庁が一括計上するのであれば、業務の内容や委託先の選定など、常に透明性を確保することが求められることになるでしょう。
3)第三に、いかに民間を巻き込んでいくかです。国が様々なシステムやサービスをすべてゼロから開発していく必要はなく、利用者視点に立ったサービスを実現するためにも、民間の技術や開発手法、サービス・アイデアを積極的に取り入れていくべきです。
また、引っ越しや子育て、介護などのサービスをオンラインで完結するためには、行政機関のみならず関連するサービスを提供する民間企業の対応が必要であり、官民の協力・連携が不可欠となってきます。
デジタルガバメントで先行する諸外国では、デジタル化は行政改革の手段として位置付けられています。わが国のデジタル庁も、政府や地方自治体の業務や行動の改革を先導する意識が求められています。
まとめ
デジタル化の推進は生活全般に関係してきますが、とりわけ「テレワーク」をはじめとした「働き方改革」に大きな影響を与えそうです。その影響は「大都市と地方との人口格差の是正」や「人口減少化の中での地域活性化」など、国内各地の様々なシーンで注目されていくことになるかもしれません。
すくなくとも、全ての国民がデジタル化に親しんでいけるようしたいものです。還暦を迎えた私も、デジタル化の波にどっぷりとつかりこんでいきたいと思います(笑)