コロナ禍で「家計貯蓄率」が上昇傾向へ!
ディアパートナー行政書士/FP事務所 代表の瀧澤です。長期下落の傾向にあった「家計貯蓄率」が急上昇しています。
【出典:日本FP協会「いまどきウォチング」から】
21世紀の日本において長らくゼロ%に近い低水準だった家計貯蓄率が、2020年度4-6月期は21.8%に急上昇、7-9月も11.3%と高い水準となっています。これには、コロナ禍における各種の経済政策、新しい生活様式ヘの対応、将来への不安の増加などの理由が考えられます。
かつては高水準だった日本の家計貯蓄率が、令和の時代を迎えた現代まで、どのように推移していったのか、日本経済の流れとともに確認します。
1)家計貯蓄率とは
家計貯蓄率とは「家計の可処分所得に対する貯蓄の割合」と定義されています。さらに、可処分所得とは「家計収入から税金や社会保険料などの非消費支出を差し引いた金額」であり、簡単にいうと、貯蓄率は「稼いだお金の手取金額のうち、使わずに残っているお金の割合」となります。
もちろん、貯蓄は手元にある現金だけではなく預金・貯金、株式や投資信託などの投資、一定の保険契約なども含みます。
日本人の貯蓄好きな国民性もあり、20世紀後半は高い貯蓄率によって銀行の預金残高も増え、結果として銀行からの融資が企業の成長を支え、日本の経済は成長していきました。 しかし、1990年代初頭以降のいわゆるバブル経済崩壊後は経済の長期低迷とともに貯蓄率も低下していくことになります。
2)1970年代~1980年代は13%~20%と高水準
貯蓄率は、「消費支出が変わらずに可処分所得が増える」、あるいは「可処分所得が変わらずに消費支出が減る」、または「両方の影響が重なるとき」に高まります。一方、「可処分所得の減少」、「消費支出の増加」は貯蓄率が低くなります。
1970年代における高い貯蓄率の推移は、可処分所得の増加が大きな要因と考えられます。戦後の第一次ベビーブーム期(1947~1949年)に生まれた団塊の世代による多くの労働力と所得倍増計画などの政策がかみ合った1960年代は高度経済成長期と呼ばれ、東京オリンピック(1964年)や大阪万国博覧会(1970年)も当時は景気拡大に好影響を与え、結果として多くの人々の収入増につながりました。
また、現代と比べて社会保障費が問題視されていなかったため、社会保険料が国民の可処分所得に与える影響は小さかったと言えます。その結果、収入の上昇率にともなって短期的な貯蓄率も上昇したと考えられます。当時の金利水準が非常に高かったことも、消費より貯蓄というマインドを高めた要因でしょう。
1980年代になっても日本の経済成長は続きました。収入や可処分所得は引き続き増加傾向の家計が多かったと考えられますが、貯蓄率は徐々に低下していきます。これは、安定して高い収入を得られるようになった人たちが生活水準を上げたことで消費支出が増加したこと、持続的なインフレーション(物価上昇)による消費支出の増加が可処分所得の増加を上回ったことが影響しています。
また、一般的に将来の生活に不安を感じなくなると貯蓄率は低下するため、バブル経済は終わらないと考えていた人が多数だったとも言えるでしょう。
3)1990年代以降は下落、低水準が続く
しかし、現実にはバブル経済は崩壊しました。1990年代になると高金利かつ高い物価水準のまま収入は増えなくなりました。当然のことながら可処分所得は減少しますが、すぐに生活を見直して消費支出を減らすことは難しく、貯蓄率は年々低下していきます。
この頃の日本は世界を代表する先進国として、GDP世界第2位の経済大国になり、税制や社会保障も変化を遂げていきます。1989年には消費税(当初は3%)が導入され、少子高齢化を見据えた社会保障制度の改革も国民や企業の保険料負担を増加させました。
その後、長引く景気低迷によるデフレスパイラルや金利低下の影響を受けて、貯蓄率はほぼ直線的に下落を続けます。さまざまな経済政策や金融政策が実施されるものの海外企業との競争は激しさを増し、勤労者の雇用待遇も厳しいものとなりました。収入が増えないどころか現状を維持することも難しい時代に、社会保険料などの非消費支出は増加、貯蓄に回す余裕はなくなってしまいました。
2009年から一時的に貯蓄率は高くなりましたが、これは2007年のサブプライムローン問題から2008年のリーマン・ショックにつながる金融危機の影響が大きくあります。世界的な景気低迷、消費の落ち込みとなり、急速な円高米ドル安が進みました。日本においても輸出関連企業から株価が暴落し、さらなる景気後退の不安から将来への備えが増えたと考えられます。
しかし、それも長くは続かず、ついに2014年の貯蓄率はマイナス0.3%(2013年度ベースでマイナス1.3%)となってしまいます。日本の貯蓄率が、初めてマイナスに転じたことは衝撃的でした。ただし、この年のマイナスは4月に消費税の増税(5%から8%)があったため、2014年1-3月期(2013年度末)に駆け込み需要で消費支出が急上昇したことが原因とも考えられます。
4)2019年代後半から急上昇。その要因は?
2014年以降に注目しながら、四半期ごとの貯蓄率の推移を見てみましょう(図2)。
2014年1-3月期の大幅な落ち込み以降は回復しているとはいえ、2019年7-9月期までは貯蓄率ゼロに近い水準となっています。
ところが、データを見ると2019年10-12月期から貯蓄率は大幅に上昇しています。この時期は、記憶にも新しい消費税の増税(8%から10%)がありました。前回増税時のように直前の駆け込み需要で貯蓄率の低下という傾向は見られず、消費を控えて貯蓄に備える行動が多く見られたと考えられます。その結果、貯蓄率が上昇しました。
2020年4-6月期、7-9月期はさらに急激な貯蓄率の上昇となりました。緊急事態宣言による外出自粛で、消費支出は大幅な減少となったことに加え、医療、雇用、教育など先行きの見えない不安から、これまで以上に節約して将来に備えた人も多かったのでしょう。そして、個人向けの支援策として1人10万円が給付された特別定額給付金は、かなりの部分が消費ではなく貯蓄に回ったのではないでしょうか。
しかしながら、このような上昇要因が長く続くとは考えられません。日本は総人口の20%以上を65歳以上が占める超高齢社会です。継続的な勤労収入を得ない世帯が多い中で、貯蓄率を高めることは難しいのが現状です。
5)人生100年時代の家計貯蓄
令和の時代を迎えて短期的には貯蓄率は上昇していますが、超高齢社会の人口構成、社会保障制度の疲弊、財政を維持するための税負担増加など、日本経済への不安要素は多くあります。その中で、将来のための貯蓄を増加させるには個人の自助努力が必要です。
長寿化による人生100年時代を安心して過ごすために、リタイアメント後にも収入を得られる手段や貯蓄を取り崩しながら生活するには、どのように支出を抑えればいいかなど、将来のライフプラン設計をしっかりと行う必要があります。