ふるさと納税、過去最高でも10人に1人?

 
 こんにちは、ディアパートナー行政書士・FP事務所 代表の瀧澤です。今回は”ふるさと納税”についてです。

2000円の自己負担でもらえる返礼品分だけお得

 この2000円は正式には寄付金控除の下限適用額ですが、いわば「ふるさと納税プロジェクト」への参加費のイメージでしょうか。2000円分だけ自己負担して全国の自治体から任意に選び(この時に返礼品も選びます)、寄付をする。すると地元の特産品が返礼品として届くと同時に(返礼品がない自治体もあります)、翌年分の、本来であれば居住地に支払う住民税からその分が減額されるシステムです。

 自分でチョイスする返礼品の原資はいずれ払わなくてはならない住民税ですから、支払い先を変えただけでもらえる返礼品の分だけお得になる仕掛けです。

 例えば年収500万円の独身、もしくは共働きの人であれば自己負担が2000円で済む寄付額の目安はざっくり6万円。寄付金1万円の返礼品でホタテ1キロが「相場」ということなので、ホタテが6キロも返礼品として送られてきます。お得感満載です!

2020年度の寄付額 過去最高の6725億円

 7月30日に総務省が発表した「ふるさと納税に関する現況調査結果」によれば、2008年の制度開始以来13年目の昨年は件数・額ともに前年比1.4~1.5倍に急伸しました。寄付額は6725億円と過去最高を更新しています。新型コロナウイルス禍の巣ごもりで高まった「おとりよせ消費」に対する関心が背景にあるようです。

 お得度も増したようです。本来なら料亭などで使われていた高級食材が返礼品市場に回ってきたことに加え、生産者支援を目的に農林水産省が返礼品調達費の半額を補助する制度を設けたりしています。

10人に9人は本来の意味で「活用」していない?

 大々的なテレビCMなどもあり認知度は向上、利用者の裾野も広がっている半面、住民税の払い先を変えるという本来の制度の枠組みを活用している人は意外にまだ少数派のようです。

 同時に発表された昨年度の住民税の控除適用者数は約552万人。一定以上の所得があって住民税を支払うべき納税義務者は日本に約5900万人もいる計算になりますから、そのうちふるさと納税を行い、さらに住民税の控除手続きまで行っている人は全体の9%強、つまり10人に1人しかないことになります。残りの10人に9人は住民税の控除というふるさと納税本来のメリットを活用していないのが現状のようです。

 もちろん中にはあえて「寄付はするが住民税の支払い先は変えない」という選択をするために、あえて確定申告などの手続きをしない人もいることでしょう。ただ、そうなると経済的にはシンプルな寄付と同じです。それよりも、むしろ誤解、もしくは手続きミスをしている人の方が多そうです。

誤解① 自動的に手続きが完了する?

 返礼品を主目的にふるさと納税専用のサイトから手続きする場合、納税自体はクレジットカードを使ってオンラインで完結します。感覚的にはほとんどネット通販と一緒です。あまりに簡単なため忘れがちだが、最終的に税金の控除を受ける手続きは別に存在します。本来は確定申告が必要となります。

 会社員など確定申告をしない人を対象に寄付先が5カ所以内に限り申告不要で済む「ワンストップ特例」という制度もありますが、その場合も自治体との間で封書による書類のやり取りが発生します。ネット通販がごとく、お買い物気分で「ポチッ」としただけで後の処理を怠ると、寄付の原資に住民税を充てる手続きはなされていない状態のままになっています。

 また、そもそも原資となる住民税を支払っている必要があります。例えば専業主婦(夫)の人の場合、自分が手間暇かけて手続きをしたとしても住民税を払っているのは配偶者なので名義は必ず配偶者にする必要があります。「ポイントが付くし」と自分名義のクレジットカードを使ってしまうと、税金の控除手続き上は不備になるので要注意です。

私の失敗(意味ないじゃん・・・ってやつ)

 私も上記と似たような失敗をしでかしています。

 数年前に自宅を新築して、旧宅から引っ越しをする際に、「居住用財産買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」を利用し、2年間、所得税と住民税が0円になりました。この制度の申請条件が確定したのが12月下旬で、この年には、いつものように出身地の村へ10万円のふるさと納税(村宿泊施設のペア宿泊券2組が返礼品)してあったのですが、この控除制度が適用になったために、翌年の住民税が0円になったため、単に10万円を寄付してペア宿泊券を頂戴したカタチになってしまいました。

 ペア宿泊券が1万6000円ぐらいですので、2枚で3万2000円でしょうか。マイナス6万8000円という結果になってしまいました。残念!!

誤解② 居住地の自治体が財政破綻する?

 住民税は自治体による行政サービスの原資となります。「ふるさと納税で支払い先を替えると居住地のサービスが低下するのでは……」というのは至極当然な心配でもあります。しかし、控除額(住民税の特例部分)には「住民税所得割額の2割」という上限がありますので、仮に住民全員がフルに利用したとしても減少するのは個人住民税の所得割の2割減程度にとどまることになります。自治体の税収としては他に法人住民税もあるし、個人・法人ともに均等割部分も存在します。

 さらに多くの自治体では「地方交付税」の形で国がバックファイナンスをしてくれる制度があります。税収が豊富な東京23区や川崎市など不交付団体は例外ですがが、全国の多くの自治体では住民税の流出額の4分の3は交付税で補塡されます。ふるさと納税が増えても「破綻する」「困窮する」というレベルにはならない歯止めが存在しているのです。

 とはいえ、税収減につながるのは確実なことです。川崎市の場合、昨年ふるさと納税による税収減を強調したポスターなどを作成、住民に訴えかけを行ったそうです。2019年度に流出した63億円分の行政サービスは保育園運営経費に換算すると園児3800人分、ゴミ収集処理なら36万世帯分に相当するといいます。

 同時に地元のサッカーチーム「川崎フロンターレ」のユニホームなどを返礼品に、逆にふるさと納税「誘致」の動きも強めているということです。

誤解③ 寄付額は全額自治体の収入になる?

 高額な返礼品合戦が浮き彫りにした通り、ふるさと納税は流入額が増えても丸々は自治体のもうけにはならない仕組みとなっています。返礼品の調達費用に加え、バカにならないのがふるさと納税ポータルサイトに支払う手数料です。

 国は2019年に返礼品の調達費を寄付額の3割以下、総経費を5割以下にすることを定めました。逆にいえばどんなに額が集まっても、半分近くは自治体外へと流れ出ている現状があります。2020年度の実績では返礼品の調達費比率は26.5%で、それ以外の決済代行や送付、事務などポータルサイトに払う費用も含めた総経費比率は45.1%でした。

ふるさと納税で災害支援 返礼品なしワンクリックで完結

 ふるさと納税の仲介サイト「ふるさとチョイス」を通じた被災地への寄付が広がっているようです。
 先頃、土砂災害にあった静岡県熱海市に対し全国から支援の寄付金が集まっています。使われているのは、通常なら返礼品のお得さが人気のふるさと納税の仕組みです。

返礼品合戦から進化 ようやく本領発揮?

 前述のとおり、2008年に始まったふるさと納税は大まかにいうと、自分が納める住民税の一部を居住地から別の自治体に移す仕組みです。一般的には寄付先からお礼として届く特産品の魅力がけん引して普及した制度ですが、災害時の寄付に対しては返礼品はないのが普通です。それでも広がる支援の輪は被災地支援の枠組みとしてのふるさと納税の有効性を示しています。

 コロナ禍では医療従事者や需要減で打撃を受けた農林漁業者などへの寄付も目立ちました。返礼品を巡る訴訟など、とかく批判も多かったふるさと納税ですが、今年はようやく本来の助け合いシステムとして機能し始めた「元年」と記憶されることになるかもしれません。

ほとんどワンクリックで寄付終了

 発足当初は自治体自らが窓口となり静かに始まったふるさと納税だが、やがてネット上に専門の民間サイトが次々立ち上がったことで利便性が一気に増しました。電子商取引(EC)を手掛ける業者のサイトの場合、ほとんどネット通販のお買い物感覚で手続きが済みます。通常は季節ごとの旬の食品などの人気ランキングや、寄付額に対する返礼品額の割合を示す「還元率」ランキングから寄付先を選んだりするが、災害時には専用サイトが素早く立ち上がるのでそこから寄付を行うことになります。

 サイトには、被害を受けた対象の自治体名が並び、返礼品がないことや寄付の証明書が届くのに時間がかかることなどが書かれています。金額は1000円以上など少額からでクレジットカード決済も可能です。必要なアクションは金額を埋めて「OK」を押すだけなので、もともと個人情報を登録しているサイトであれば5分もかからず完結します。

自治体間の助け合いも広がる

 「代理寄付」の制度も広がってきました。被害を受けた当該自治体の代わりに別の自治体が事務作業の肩代わりを目的に名乗りを上げる制度です。お金は被災地に入る一方、発送が必要な「寄付金受領証明書発行」など面倒な事務作業は代理の自治体が手掛けるので被災地は復興に専念できることになります。

 熱海市の場合、茨城県境町や岐阜県下呂市などを通じて寄付することができます。16年の熊本地震をきっかけに広がった動きですが、助けられた側が復興後は助ける側になるなど、いい循環も回り始めているようです。 

まとめ

 ふるさと納税は通常「自己負担2000円でもらえる特産品の分だけお得」と説明されることが大部分です。原資は自分がいずれにしても支払わないといけない住民税ですから、キャッシュアウトは寄付金控除の下限適用額2000円だけで済む計算です。それに対し、普通に買えばそんな額で手に入らないような特産品が送られてきます。(詳しい仕組みは前述のとおり)

 クレジットカード決済で寄付した場合、通常の買い物と同様、翌月以降に口座から引き落とされるが、自己負担2000円以外の部分を取り返すのは翌年の6月以降に支払う住民税の減額という形になります(確定申告をする場合は一部所得税から還付されるが、合計金額は同じ)。

 もろもろ注意点はあるが、ワンクリックで済むふるさと納税の仕組みは機動的な寄付に最適なシステムです。普段は返礼品目的でもいいかもしれませんが、災害時は助け合いの精神に立ち返る好機にもなります。

 例えば自分で毎年のふるさと納税予定額の一定割合を「災害寄付予算枠」として管理して運用する――。そんな素敵な使い方をするふるさと納税があってもいいかもしれませんね。

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