「争族」のリアル 遺産分割、不動産や贈与に火種

みなさん、こんにちは!「家族信託」や「遺言書」など生前の相続対策に特化した取組を行うディアパートナー行政書士事務所です。
今回は、2022年2月20日付け日本経済新聞土曜版に相続にまつわる諸問題に関係した記事が掲載されていましたので、それに関して投稿していきます。

主な遺産が自宅だけの場合は相続トラブルになりやすい

人が亡くなると避けられないのが相続の問題です。「うちの家族は仲が良い」「大騒ぎするほどの財産はない」と安心し、準備に踏み出さない人も多くみられます。しかし金額の多寡にかかわらず、親族間で遺産の分け方を巡って争うケースは増加しています。典型例から「争族」(あらそうぞく)を防ぐ対策をおさえていきましょう。

【ケース1 遺産が自宅のみ】

死亡したAさん(80代)の遺産は2000万円の自宅(土地・建物)のみで、法定相続人は子供2人です。Aさんは遺言を残しておらず、同居する長男に自宅を相続させると生前話していました。しかし次男は遺産分割協議の場で不公平と主張し、対等な相続になるよう金銭を要求しました。

不動産の特徴は、現預金など金融資産に比べて分割しにくいことです。それだけに相続財産が自宅のみだと分割協議でもめやすくなります。司法統計によれば、2020年に全国の家庭裁判所が新規に受けた遺産分割に関する調停・審判件数は約1万4600件と、この20年で3割強増えています。「トラブルに発展するのは親の遺産が自宅しかないパターンが目立つ」と司法書士は指摘しています。

Aさんのケースのように自宅に住み続けたい長男と、自宅は欲しがっていない次男が対等に分割するには「代償分割」が選択肢になります。「代償分割」は自宅を引き継ぐ人が見返りとして他の相続人に自身の資産から代償金を支払う方法です。このケース1の例では、長男が次男に1000万円を支払うことにより対等になります。

代償分割は家を相続する人が代償金を払えるだけの現金を用意できるかが重要となりますが、十分な資金がない場合が多数です。そこで事前の対策として活用できるのが生命保険になります。被相続人(Aさん)が生前、家を相続させたい人を死亡保険金の受取人に指定しておきます。保険金は受取人固有の財産となり、遺産分割の対象から外れるため、保険金を代償資金に充てられ、円滑な遺産分割に役立ちます。

ここで行ってはならないのが、死亡保険金の受取人を次男に指定することです。保険金は受取人固有の財産であるため、次男は死亡保険金を受け取ったうえに、代償金を要求することができます。あくまでも長男を保険金の受取人として、長男から代償金として次男に渡すことが必要です。

ケース1に限らず、不動産は争族の原因になりがちです。例えば死亡した被相続人が資産家で自宅以外に複数の不動産を保有していた場合、それぞれの資産価値が異なるため相続人の間でどう分けるかもめる原因になります。さらに相続税は現金一括納付が原則ですので、遺産が不動産に偏ると相続人は納税資金に困ることになります。複数の不動産があるなら一部の不動産を早めに売却し、分割しやすい現金に組み替えておくのも一案となります。

【ケース2 生前贈与がある】

Bさん(70代)が急死し、遺言がなかったため妻と子供2人(兄・妹)が話し合って遺産を分けることになりました。分割協議のさなか、Bさんが生前、兄に住宅購入資金1000万円を贈与していたことが判明。妹は「兄の相続分から1000万円を差し引くべきだ」と詰め寄り、兄も「妹は大学時代にたくさん仕送りをもらっていた」と応戦しました。

遺産分割の際、特定の相続人が故人から生前贈与を受けているとトラブルになりやすくなります。特別受益と呼び、多額の教育資金なども該当となります。遺産分割協議で特別受益を考慮することもできますが、相続人全員の合意が必要となります。弁護士は「日本では親が子を援助することが多いうえ、どちらが親に大切にされていたかという不公平感から感情的な争いになりやすい」と話しています。

相続人のなかに故人の介護に尽くしたり、家業を手伝ったりした人がいる場合も注意が必要です。故人に寄与したことを理由に多くの取り分を求めると、どれくらい上乗せするのか、寄与があったのかどうかなどを巡って相続人同士が対立する可能性があります。

こうしたトラブルを回避する有効な手段が遺言です。遺言があれば原則として遺言の内容に沿って遺産分割をするためです。遺言では誰に、どの財産を、どれだけ渡すかを具体的に指定します。「誰が読んでも誤解を生まない遺言を残すことで大部分の相続トラブルを回避できる」と弁護士は助言しています。

遺産の配分は被相続人が自由に決めることができます。相続人それぞれの取り分を必ずしも対等にしなくても構いませんが、相続分で差を付けるなら、生前にその理由や家族への思いなどを丁寧に伝えておきたいものです。遺言書のこの部分を付言事項(ふげんじこう)といっています。

また法律で決まっている各相続人の最低限の取り分である遺留分には配慮が必要です。遺留分を侵害された相続人は他の相続人に支払いを求める「遺留分侵害額請求」をすることができます。交渉が難航すれば、家裁での調停に発展しかねません。

【ケース3 遺言を自分で作成】

Cさん(70代)の死後、自筆の「遺言書」が出てきました。しかし遺言の日付が書かれておらず、相続分に納得できない子供の1人が「日付のない遺言書は無効」と主張しました。

遺言書には大きく分けて公正証書遺言と自筆証書遺言の2つがあります。(このほかにも秘密証書遺言がありますがほとんど活用されていません)

公正証書遺言は公証人が本人から遺言内容を聞き取って作成するため無効になることはほぼありませんが、財産額などに応じて数万円の手数料が発生しまする。自筆証書遺言は費用はかからない半面、書式の不備などから争いになりやすくなります。

自筆証書遺言は本文や日付、名前などを自筆し、押印する必要があります。要件を満たさない遺言は法的に無効となります。失敗例の多くが作成年月日の記載漏れのケースです。「2月吉日」といった記載も作成日を特定できず無効になります。

そこで選択肢になるのが自筆証書遺言の保管制度(令和和2年7月10日から施行)です。これは自身が作成した遺言書を法務局で預かる仕組みで、手数料は1通3900円となります。正しい形式で書かれているかを申請時に担当者が確認してくれますが、内容をチェックしてもらうことはできないので注意が必要です。この保管制度を活用することにより「遺言書が発見されない」リスクがなくなるうえ、家庭裁判所による検認が不要になります。

認知症、家族信託が選択肢

争族を避けるのに遺言は重要ですが、認知症などで判断能力が低下すると遺言を作成すること自体が難しくなります。元気なうちに準備を始めることが大切です。認知症に備えた相続対策では「家族信託」の活用も選択肢となります。

認知症と診断されると原則として預貯金を引き出したり、金融商品や不動産を売買したりできなくなるなど、資産が事実上凍結されます。家族信託は自身が信頼する家族に財産管理を任せる契約を事前に結びます。基本的に本人が財産を託す委託者と財産から利益を受ける受益者を兼ね、親族が財産を管理・処分する受託者となります。信託目的や信託財産などを定めた契約の範囲内で財産を売買し、受益者の介護費や医療費を捻出することもできます。こうした自益信託(委託者=受益者)は贈与税は発生しません。

一方、成年後見制度のうち裁判所が選任する後見人が財産管理を担う法定後見では、司法書士など第三者の専門家が後見人を務めるケースが多く、本人の財産保護を重視するために機動的な財産処分は難しくなります。自宅を売却する場合も家庭裁判所の許可が必要になります。

家族信託は財産の承継先なども盛り込むことができますので、自身の死後の1次相続に加えて「その後の2次相続の承継先も決められるのが遺言とは異なるメリット」になります。例えば自分の死後の承継先を妻に、妻の死後は長男に財産を渡すといった指定が可能となります。

早めの相続対策が大切

遺産分割などの相続対策は早めに行うことが重要になります。例えば、本人の意思能力が失われてしまった場合は、「遺言書」も「家族信託」も活用することができなくなり、法定後見を利用するしか解決策がなくなってしまいます。早めに手立てしておくことで、相続人どおしの「争族」(あらそうぞく)を防ぐ対策にもなります。

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